Side Story
少女怪盗と仮面の神父 55
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性が、こういう音をいきなり大音量で出すんですって。好意や期待感を表しているような、気配みたいな音を。
しかも、一度目二度目と、顔を合わせるたびに音質が酷くなるらしいわ。
年齢を重ねるにつれて、ある程度までは自力で防げるようになったみたいだけど……それでも、生きている限り、すべてを防ぎ切るのは不可能よ。
彼以外の誰かに反応した音まで拾ってしまうというし、生れつき耳が良いあの子にとっては、毎日がとんでもない苦痛でしょうね。
だからこそ、誰にでも等しく作り物の笑顔を振り撒いて期待の芽を摘み、必要以上の接触を拒んでいるの。
女性の多くは自尊心や自衛心が高くて、自分だけを特別視してくれないと理解した途端、相手を観賞物扱いして自ら距離を置くか、こっちのほうから願い下げだと、勝手に身を退いてくれるから」
「……こんな音を……生まれてから、ずっと……?」
両耳から離した手が震えてる。
頭痛にも似た鋭い痛みのせいで、細めた両目に涙が滲む。
ふと、教会のアプローチに一人で佇んでいた彼の顔色を思い出した。
(あれは……もしかして、女衆から離れて耳を休めてたの? でも)
「村の音は心地好いし、私の音は綺麗だって……」
「遥かな昔、世界は目に映らない小さな鈴の連なりで編まれ、その繋がりと個々の音によって、美しい旋律を奏でていた」
けれど、いつかの時代、どこかに狂った音色が雑じってしまったせいで、そこから歪んだ旋律が全体に拡がってしまった。
アーレストが産まれた時には、手の施しようがないほど歪みきっていて。
睡眠時以外は何をどうしても泣きやまない赤子の世話で衰弱してしまったクレンペール家一同は、王妃陛下の助言に従い、彼を王城へ預けてみた。
「彼は人の出入りが制限された王城の片隅でようやく安らぎを得たそうよ。そうしていつしか自我が芽生えると同時に、歪みの原因の半分以上が人間の感情だと気付いてしまった」
「旋律を歪ませた原因の大半が、人間の感情?」
「人間の独占欲や支配欲や害意。自分以外の生命のあり方を自分に都合良く定めたい、縛り付けたい、自分だけを見て欲しい、自分と同じかそれ以上の想いを返して欲しい、自分の気持ちに添った言動だけを見せて欲しい……。そんな、相手の事情や気持ちを少しも考えていない身勝手な好意や願いが、自分自身の音を狂わせ、周囲の旋律に悪影響を与えるの」
たとえば、旬を無視していつでも食べられるように作り変えられた野菜。
たとえば、家畜として囚われ、与えられる飲食物しか口にできない動物。
たとえば、そこに流れていた川を埋め立て、不自然に作り変えた地形。
「植物には植物の。動物には動物の。そうあるが為に越えられない、明確な線があって、それ故に世界は均衡を保っていたのに。人
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