暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 54
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ランタ=クルールが作り出した元始の花型複材燭台。二十台前後の連番中、多くは歴史の流れに消えてしまったけれど、近代確認された三台のうち一台は一昔前に北大陸の内乱で焼失。一台がアルスエルナ国内で発見、修復されたそれ。右隣の物は修復を担当した装飾技師が作り上げた模造品で、もう一台はアリアシエルの教皇室に納められているわ。ふふ……あんなに遠く離れた場所から迷いなく本物に駆け寄るなんて。貴女、優れた鑑定眼を持ってるじゃない」

「みゃぎゃああっ??」

 その筋の人間には、大変貴重な歴史的文化遺産と呼ばれ。
 装飾界隈の誰もが、死ぬまでに一度は見てみたいと血眼(ちまなこ)になって探している幻の逸品。
 それに出会えた喜びと感動に浸っていて、油断した。

 まさか、近くに人が居たなんて!
 と、反射的に身構え。

「……え? あれ? 鏡? 幻聴?」

 誰も居ない空間を見て、肩の力を抜く。

 いや、居るには居るが。
 不思議そうな顔でこちらを見ているのは、水辺で見慣れた自分の顔だ。

 バンダナで覆い尽くせるよう、短く切り揃えた金色の緩やかな髪。
 南の地にあっても、何故かあまり陽に焼けない白い肌。
 陽光が落ちた直後の、ほんのり明るさを残した北西の空と同じ藍色の目。
 胸元に揺れる銀色の水鳥も、真っ白い長衣から覗く白い両膝も……

(……ん? 膝? 膝なんか出してたっけ?)

「ふぅ〜ん? 想像していた以上にそっくりね。これなら十分楽しめそう。でも、惜しいわ」

 自分の足元を確認しようと下げた視界に

「ここがもう少し成長していればねぇ」

 洗濯板をぺたんと押さえる二本の腕が生えた。

「……………………………………。」
「あら。手触りは悪くない」

 むにゅ?
 むにゅってなんだ、むにゅって。
 幻覚や幻聴にしては、感触が妙に生々しい……

「ってぇ! さすがの私でも、生身の人間が触れば現実かどうかくらい判別できるわあっ! 貴女、誰?? 何者?? というか、その手を放せえぇっ??」

 咄嗟に両腕で胸部を庇い。
 大きく飛び退いて、ガラス窓に背中をビタッと貼り付ける。

 羞恥と驚きで潤んだ目線の先。
 両腕を伸ばしたまま腰を屈めている女性は。
 よく見ると自分より背が高く、胸が……大きい。腰も、くびれてる……。
 なんたる屈辱感……。
 緩やかな髪も、首筋で束ねてるだけで、実際は腰辺りまで伸びてるし。
 靴すら履いてない素の白い両足には、わずかな傷もなく。
 骨格や筋肉の付き方からして美しい。

 あ。ダメだコレ。
 同じ顔(こちらのほうがやや年下と推測)の別人にボロ負けしてる。
 惨敗だ。

「教会内で無闇に大声を出すものではなくてよ?」

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