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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 54
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正面左が主に信徒達の生活・仕事区域。真ん中が一般向けの礼拝・見学区域。右側が役員達の生活・仕事区域。と大雑把に覚えていただければ十分です。貴女が招かれている次期大司教様の執務室は、建物の中央にある左右対称の階段を右へ上り、右手側の廊下をまっすぐ進んだ先、突き当たり正面にあります」

(……本当かなぁ……?)

「嘘を教えてどうする」
「声に出してないのに!」
「顔には出てたな」
「純粋無垢な自分が恨めしいっ」
「冗談を言える余裕があるなら問題なし。とっとと行ってこい!」
「……はあ〜い」

 肩を小突かれ、指定された場所へと渋々向かう。
 が。

(案の定迷ったら、一生文句を言い続けてやるーっ!)

「……彼女も、閣下の『生贄』なのでしょうか。セーウル殿下」
「……私に尋かれても困る」



 一度すり抜けた、礼拝待ちの異様に静かで分厚い群列を、再度すり抜け。
 人の熱と臭いでへとへとになりながら、中央階段を右へ上がる。
 言われた通りの順路は確かに単調で、突き当たりまでひたすらまっすぐに歩けば良いのだと一目で分かった。確かに、迷うことはなさそうだが……

(無駄に広い……いや、ちゃんと意味があっての広さかも知れないけど! それにしたって、突き当たりに着くまで何分掛かるのよ、この廊下!)

 さりげなく敷かれてる落ち着いた色調の絨毯とか。
 天井に点々とぶら下がってる豪華なシャンデリアとか。
 右手側でずらーっと整列する扉の脇にそれぞれ飾られてる壺とか花瓶とか風景画とか、左手側に等間隔で填められてる大きなガラス窓とか。
 ここに使われてる物だけで、総額いくらになるんだろう?
 一つでも壊したら、生涯無償で強制労働させられそうだと。
 そんな、嫌な想像に口元を引き攣らせながら、てふてふ歩いていくと。

「…………っ??」

 信じられない物が視界に飛び込んできた。

(ま……まさか、そんな!)

 廊下の突き当たり正面にある、焦げ茶色の堅そうな扉。
 その両脇に、(はかな)げな容姿でひっそりと。
 しかし、無視できない存在感を放って佇むあれは!
 思わず駆け寄り。
 触れるか触れないかギリギリの所で、視線と指先を上下左右に泳がせる。

 山型の台座から、細長くも歪みなくまっすぐ伸びている黄金色の美脚。
 その全身に絡み付くような、緑色に澄んでいるガラス製の葉っぱと茎。
 白濁した五枚の花弁の中央にピンと立った鋭い針と、深型の金皿。
 そのどれもが妥協を許さない、実物と見紛うほどの精密な作り込み。

(……間違いない! これはっ……)

「旧史一三七八年頃。バーデル王国の前体制である、アレスフィート公国の工業全盛期に、世界初の貴族出身女性装飾技師フィルメ
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