Side Story
少女怪盗と仮面の神父 54
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と来なかったが、兄と似た隙がない所作は、確かに王族だなと思わせられる。
「よろしくね、ヴェルディッヒ」
「ああ」
ハウィスから離れ、彼の手が導くまま馬車へ乗り込み、席に着く。
「あ、そうだ。神父様」
「はい?」
「短期間ながら大変お世話になりました。お礼……と言ってはなんですが、その顔に拳の跡を付けさせてくれませんか? 一つだけで構わないので」
「私は、いついかなる時でも神父として当然のことを為したまで。なので、丁重にお断りさせていただきますね」
「とても残念です。神父様に頂いた心理的負荷のおかげで極めて不倶戴天な心境です。今は人目もある為退きますが、いずれ必ず、お返しに伺います。覚悟しておいてください」
「はい。道中お気を付けて。女神アリアの祝福が舞い降りますように」
「「ありがとうございます」」
まったく動じていない、いつもの嘘臭くて憎たらしい笑顔で別れを告げたアーレストが、外側から扉を閉める寸前。
「行ってらっしゃい!」
聞き慣れた母の明るい声に振り向き。
「行ってきます!」
こちらも、とびっきり明るい声を弾ませた。
閉ざされた空間の外側で、先導者の合図が響き渡り。
やや間を置いてから、車輪がゆっくりと滑り出す。
「嬉しそうだな、お前」
正面に座ったセーウル王子……もとい。
ヴェルディッヒが、寂しくないのか? と頭を傾ける。
七年間を過ごした最愛の故郷だ。寂しくないのかと尋かれれば、どんなに決意を固めてたって、別れは寂しいに決まってる。
でも。
「嬉しいよ? だって」
扉に填まってる小窓の向こうで、少しずつ小さくなるエルーラン王子と、アーレストと、ハウィスの輪郭。
「みんなが笑ってるもの」
反対側の小窓に目をやれば。
神々しいほどの白光が、濃い青と深い緑を照らし出していた。
今……長い夜が過ぎ去り、新しい未来が始まる。
南方領を中心に活動していたシャムロックだが。
他方領へ出向いた回数は、両手の指で足りる程度だ。
それも、領境から一日で移動できる範囲内が、子供の体力と精神、時間と金銭の限界だった。
つまり。
ミートリッテには、南方領と直接繋がる東方領か。
よく行っても、中央領の端っこまでしか立ち入った経験がない。
人口と物流と文化の規模といえば、幼少期を過ごしたバーデルの港町か、南方領で一番大きい街が最高基準になっていると言って良い。
もちろん、都と称される国の中心部が他の領地と肩を並べる程度で収まる筈がないのは解っていたが、最高基準を越える規模など想像やら妄想やらの域を出られるわけもなく。
要するに。
「どうしても、ダ
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