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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 54
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対知ってるだろうとエルーラン王子に引っ越し先を尋ねてみたところ、そこに関心を持った分だけは成長したな、と意地悪な言葉をくっつけつつ、今は王都の片隅で一般民の生活を謳歌していると教えてくれた。
 引っ越し当初は、解任されて良かったよぉーっと、一家揃って涙ながらに語っていたとも聴いた。
 お父様が彼らに何をしたのかは、恐ろしくて問い質す気になれない。

「うん、ありがと。待たせてごめんね。ドレス、重かったでしょ?」
「こればかりは慣れるしかないもの。貴女もその格好、動きにくそうよ? 足元は大丈夫だった?」
「これこそ毎日着なきゃいけない物だし、どうしようもないもん。まさか、膝上で切り揃えるワケにもいかないしねぇ」

 かく言う自分もアーレストの神父姿と同じ、ダラダラした白い長衣姿だ。
 首には、アリア信徒の証である月桂樹の葉をくわえた水鳥のペンダントもぶら下げている。
 実際に着るのは二度目だが、上から下まで余す所なく真っ白なだけあって些細な汚れでも異常に目立つし、丈が長い分、結構重い。
 コルダ大司教もタグラハン大司教も、見た目では、中年を超えてちょっと経ってる? くらいの年齢だったのに、長衣だのマントだの金物装飾だの、よくも平然と着ていられたなあと、素直に感心する。
 さらっとして気持ちが良い肌触りと通気性の良さだけは、繊維職人さんと服飾職人さんの腕に感謝したい。

「……では、参りましょうか。お手をどうぞ? アリア信仰の大司教候補、ミートリッテ=ブラン=リアメルティ伯爵令嬢」

 くすくす笑うハウィスが、手のひらを上にして自分に差し出す。
 ああ。この瞬間が、人生の分かれ道か。

「はい。参りましょう、ハウィス=アジュール=リアメルティ伯爵様」

 同じ名前を持って別の道を行く母の手に、自らの手を重ね。
 二人で一緒に、門の外へと歩き出す。
 村に残った幼い自分が、遠ざかる母子の背中に笑顔で手を振ってくれた。
 ような、そんな気がする。



「もう良いのか? ミートリッテ。ハウィスさんも」
「「はい」」

 門を離れ、道なりに数分進んだ地点で。
 王太子付きの第一、第二王子付きの第二、第三王子付きの第三騎士団が、横並びで待機している二台の真っ白で豪華な箱馬車を取り囲み、左右二隊に分かれて整列していた。
 右側の騎馬隊が、先発する王都組。
 左側の騎馬隊が、後発するリアメルティ領の中心街組だ。
 互いの手を重ねたままの母子が、右側の先発隊に歩み寄り。
 馬車の横で待っていた王子の手前で離れ、(うやうや)しく頭を下げる。

「道中お世話になります、殿下」
「殿下はやめてくれ。お前にそう呼ばれると、背中がムズ(がゆ)い」
「……正体を知らされた上で、貴方付きの騎士に囲まれて
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