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剣の丘に花は咲く 
第六章 贖罪の炎赤石
第二話 姉妹
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「? どうかしましたか」
「気にするな、それよりまずはこの雛をなんとかしようか」
「どうするんですか?」
「俺が上まで持っていく」

 士郎が木を見上げながらいうと、カトレアも同じように背の高い木を見上げる。巣がある木には手をかけるような枝はなく、幹も太く腕を回すことは出来ず、木登りには適さない木であった。上まで持っていくとは言っても、どうやってやるのかその方法がわからず、カトレアが士郎に声を掛ける。

「そう言いますが、雛を持てば片手が使えなくなりますよ。ただでさえ登りにくい木なんですから」
「いや、手を使わんぞ」
「使わないんですか?」
「ああ。ま、取り敢えずその子を渡してくれるか」
「あ……はい」

 士郎の手の上に、カトレアが雛を置こうとする。掌から雛が離れようとする瞬間、カトレアの顔に寂しげな笑みが浮かび、

「ん……いや、やはり止しておこう」
「え」

 それを見た士郎が手を引いた。雛の置き所がなくなり、結局カトレアの掌に戻っていく。雛と士郎を見返すカトレアに、士郎が両手を上げてみせる。

「俺が持つと雛が怯えそうだからな、雛は君が持っていてくれ」
「わたしは構いませんが、でも、それならどうやって雛を戻すのですか?」
「こうやってだ……少し失礼するぞ」
「え? あの、ちょ、きゃっ?!」

 士郎は腰を落とすと、戸惑うカトレアの腰と膝に腕を回し、

「その、これは、その、どうしたら……」

 腰と膝に腕を回され持ち上げられ、所謂お姫様抱っこをされたカトレアが上擦った声を上げる。手の上にいる雛を気にしてか、特に抵抗らしい抵抗を見せない。士郎は石のように固まったカトレアを見下ろし。

「すこし目を瞑っていてくれ」
「あ、あの、こ、これは、その」
「大丈夫だ。安心しろ」
「っ……は、はい」

 ぱくぱくと口だけを動かすカトレアを落ち着かせようと、士郎が優しく諭すように笑みを向ける。何か言おうと口を開いたカトレアだったが、結局小さく頷き目を閉じた。

「それでは……いくぞ」
「ッン!」

 士郎が地面を蹴る。ドンッという重い音が響くと同時に、カトレアの身体に強い風が吹き付けた。ゴウゴウと耳鳴りのような風を切る音が聞こえたが、直ぐにそれは途切れてしまう。次に感じたのは柔らかく髪を揺らされる感触。穏やかに吹く風が、長い桃色の髪を揺らす。

「……ン……あ……綺麗」
「夜明けか、いいタイミングだったな」

 カトレアが目を開けると、そこには草原が広がっていた。彼方から登り始めた太陽が、辺りを照らし出す。目の前に広がるのは一面の緑。草原かと思ったのは、森を構成する針葉樹だった。士郎は高い木の頂上付近に生えている、一際太い枝に器用に立つと、腕に抱いたカトレアと共に枝葉の
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