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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第二十七話 馬堂豊久と午前の茶会
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誰のことを云っているのか、うっすらと予感しながら尋ねる。
「そんなところです。嫌な事ばかりでしたよ、全く。帰ってきたら来たらで面倒事ですからね――言い訳がましいですけど」
 そう云って豊久は苦笑を浮かべた。
 新城直衛、あの男が衆民の間では持ち上げられているからか守原を筆頭に他の将家から新城直衛を非難し、彼の扱いが不当だと言い立てる人間が増え、新城直衛を嫌う駒城の家臣団の中でも同調している人間が居る。
「そんなことはありませんよ」
肝 心の本人は周囲へ不満を漏らしていない、今の在り方に納得しているのだろう。達観しているのか、度量があるのか、――矢面に立ちたくないのか。
 だが――どの様な扱いだろうと、この人が北領で戦い抜いた一人であるのは確かだ。
「――ご苦労様でした」
 嘘偽りのない気持ちで放たれた茜の言葉に豊久は何やらもごもご云ってそっぽを向かれた。
 ――結局、この人の根っこは捻くれた子供。

 そう思うと少し口元がほころんだ。

「ははは、確かに苦労のしすぎで途中から苦労の意味すら分からなくなりそうになりましたよ」
 苦笑いをしながら左腕をさする豊久を観て茜はぽつり、と呟く。
「――怪我をなさったのですね?」

「――ただのかすり傷ですよ。」
 一瞬で動揺を押し殺し、余裕を感じさせる微笑を浮かべている。
 ――男の見栄、いえ、それとも将校の演技かしら?
「あまり――無理をしないで下さい」

「無茶しなければ帰って来られなかった――そう思うようにしています。
えぇ、まぁ、色々と捨てて帰ってきましたから」
自嘲する様に言う。

「・・・・・・」

 傷に触れてしまったか――

「まぁ、帰って来られただけ、私は幸運ですよ。心配してくれる人も存外多いですし。
後、親戚も増えましたからね。いやはやありがたいことですよ」
 皮肉を飛ばしながら笑っている許嫁に茜も脱力してため息をついた。
「はぁ・・・・・・」
 

同日 同刻 馬堂家上屋敷 喫煙室
弓月家末女 弓月碧


「結局、ああなるのよね〜。豊久さんは余計な気回しばかりしてつかれないのかしら?」
 のんびりと茶を啜りながら碧はまったりと安楽椅子に体を投げ出し、まさに自由を謳歌している。もう一回り年を重ね。細巻を取り出していればまさしく喫煙室の主にふさわしいのだろうが、今はまだ可愛らしいものであり、世話役を任された柚木と宮川の二人も薄く笑みを浮かべ、彼女のそばに控えている。
「茜御嬢様をお呼びしてまいりましょうか?答えをよくご存じかと思いますが」
 宮川が微笑を浮かべて尋ねると碧もクスクスと笑う。
「嫌よ、怒られちゃう。それに御兄様やここの若様にまで累がおよぶわよ?」

「御父様にも怒られるのではないかしら、碧?

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