第三部 1979年
戦争の陰翳
柵 その1
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出向いたのであった。
ハイネマンは、ミラに未練を感じて、一人篁の屋敷を訪れていたのだ。
その様子を見ていたマサキは、とんでもないことに遭遇したと思った。
思わず火のついていない煙草を口にくわえて、物陰から様子をうかがうことにした。
「どうしても君が嫌だと言っても連れて行く。
最新鋭のステルス戦術機の開発には、君のアイデアが必要なんだ」
ミラはその細面に悲憤を湛えると、何時になく興奮した様子で返した。
「私は、もう篁家の人間です。
それにブリッジス家から勘当された身……今更なんで戻れましょうか」
ハイネマンは、嫌がるミラの両腕を握った。
「そんな事は私がどうにかする。
なあ、アメリカに帰って、私と共に国防総省のために働こう!
人類の一日も早い平和の為に、一緒に働こう!」
その瞬間、ミラの美しい青い目が見開かれ、凍り付いた。
ハイネマンの後ろに、顔を真っ青にした篁が立っていたからである。
愛妻の元に、かつての同僚が来て、連れ出そうとした。
普段は大人しい篁が、激昂したのは言うまでもない。
そして静かに、右手に握っていた刀を左手に持ち替えた。
いつでも切って捨てることが出来るぞという、篁なりの警告である。
修羅場に遭遇したマサキは、いつの間にかタバコに火をつけていた。
余計なことに巻き込まれたなと思って、内心呆れていたのである。
篁とハイネマンが、無言のままにらみ合っていると、白銀が脇から出てきた。
刀を左手に持ち替えたのを見て、大慌てで仲裁したのだ。
「た、篁中尉、待ってください!」
白銀の事を、篁は必死の形相で睨み付ける。
その表情は、法隆寺にある金剛力士像そっくりに見えた。
二人が微動だにせず、睨み合っている内に、事態は動いた。
建物から、赤ん坊の泣く声が聞こえるとミラが部屋の奥に消えていったからだ。
ハイネマンは一瞬、驚いた顔をすると篁亭から足早に去っていった。
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