暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第三部 1979年
戦争の陰翳
柵 その1
[3/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
元が緩んだ。
 だが足音が聞こえてくると、表情を引き締めた。
近づいてきたのは白銀で、マサキ達を迎えに来たのであった。

 渋滞を予想して、洛中の篁亭に向かったのだが、予定よりも15分早く着いた。
マサキは屋敷に着くと、時間調整を兼ねて、庭でタバコをふかし始めた。
 身近な人物に喫煙者のいないアイリスディーナは変に思わなかったが、白銀には不思議がられた。
この時代は、今の様な嫌煙権などという狂った思想もなく、副流煙の害という物も研究途上だったからだ。
 マサキは、乳児のユウヤとミラに、受動喫煙の害が及ばないように考慮しての行動だった。
乳幼児期に副流煙を原因とした副鼻腔炎にかかれば、後の知能発達に悪影響を及ぼす。
そう考えての行動だった。
 アイリスディーナは、マサキが屋外でタバコを吸っているのは単に軍の規則に従ったものだと思っていた。
 国家人民軍は、当時では珍しく喫煙の規則が非常に厳しい軍隊だったからだ。
社会保障費の増大を防ぐ観点から禁煙を進めており、タバコは軍の配給品に含まれていない軍隊だった。
 当時の米ソ軍では、糧食と共に紙巻煙草が支給されてるのが一般的だった。
西ドイツ軍では第三帝国時代と同じ軍用煙草や、日本軍でも旧三級品が配給された。
 米軍では、一食ごとに箱に入った4本のタバコが支給された。
ただし銘柄は選べず、欲しい銘柄を交換したり、現金の代わりに重宝された。
 ソ連の場合は、然るべき申請の手続きを踏めば、一日50グラムほどの葉タバコ・マホルカが支給された。
軍だけではなく、警察やKGBも同様で、政治犯収容所でも申請すれば、マホルカが配給された。
 白銀は、喫煙習慣がなかったが、タバコは戦場で身近なものだった。
湿度100パーセントの密林の中で過ごすのに、野戦服をタバコの葉と共に煮ることが良くあったからだ。
 ニコチンの溶液を吸った野戦服は、一定の防虫効果があり、蛇除けにもなるという迷信があったからだ。
ただし、下着を付けずに直に肌に着ると、接触性の皮膚炎に悩まされたものである。

 もう一本の煙草に火を付けようとしたとき、甲高い男の声が聞こえた。
篁とも違う声で、話す内容は米国英語だった。
 マサキは煙草をしまうと、その声のする方に向かった。
話し声が聞こえた場所にいたのは、背広を着た小柄な白人の男と着物姿のミラだった。
「なあ、ミラ。私と一緒に国に帰ろう。
タダマサのとの件は忘れるから、アメリカに帰って、私の研究を手助けしてくれ。
お父上も今回の件は許してくれるはずだ」
 背広姿の男は、フランク・ハイネマンだった。
日本海軍がF‐14の試験導入をしたことを受けて、技術者として来日していたのだ。
 東京とF‐14が配備される土浦海軍航空隊基地を訪問した後、京都にわざわざ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ