第三部 1979年
戦争の陰翳
柵 その1
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たハイムが、エルネスティ―ネという若い婦人兵を紹介したのだ。
シュトラハヴィッツは若い妻を得たことで、活力を得て、持ち前の明るさを取り戻した経緯があった。
そういう経験から、マサキの中にある不平不満の中に性的欲求があるのではないかと見抜いていたのだ。
マサキの不満に気付いていたのは、ハイムだけではなかった。
老獪な政治家である御剣雷電も、また、マサキの弱点として単身者であることを恐れていたのだ。
今のまま放っておけば、マサキは精神に異常をきたし、やがては自分たちに牙をむく存在となるのではないか。
古来より凶悪犯罪者や大量殺人を行うものは、えてして性的不能者が多い傾向がある。
どんな形を用いても、マサキに普通の人間の性生活を送らせれば、自分たちへの反乱は防げるはずだ。
反抗心は防げずとも、それ自身がマサキの弱みになると考えていた。
そういう経緯があって、今回のマサキとアイリスディーナの京都旅行が許されたのだ。
色々な柵を恐れるマサキの性格上、進展した関係にならないと見ての判断だった。
マサキたちは、夕方になるまで京都市内を観光していた。
少し早い昼食を都ホテルで取った後、すぐ側にある八坂神社や知恩院を尋ねた後、清水寺に来ていた。
本当は銀閣寺として有名な東山慈照寺に連れて行こうと考えていたのだが、時間の関係で取りやめていた。
京都市内の交通事情の悪さから、タクシーで行けても、渋滞にはまって予定した時間に帰れないケースがあるからだ。
田舎からの観光客でごった返す清水の舞台などを一通り見た後、五条大橋のたもとに来た時のことである。
アイリスディーナの方から、声をかけてきた。
「不思議ですね……
こうしているとずっと昔から貴方と恋人だったみたいで……」
アイリスディーナは顔を赤く染めて、そっとマサキの方を振り向いた。
紫煙を燻らせていたマサキは、頬を緩め、屈託のない笑みを浮かべる。
「アイリスディーナ。俺はこうして女と京都を歩くのが初めてのように思える。
お前といると、目に入るもの全てが初めて見る様に感じる。
だが同時に、かつて見たことのあるものばかりなのに……」
そうだ……この世界は俺にとって異世界なのだ。
元居た世界と違う道筋をたどったもう一つの世界にしか過ぎない。
俺は、どう過ごしても異世界人なのだ。
この世界との、縁も柵もない根無し草なのだ。
いつしかマサキの顔から笑みは消え、いつもの如く無表情に戻っていた。
怏々と過去への追憶に浸っていると、アイリスディーナが声をかけてきた。
「暗くなっちゃ、駄目です」
その言葉とと同時に彼女がマサキの二の腕をつかんだ。
一瞬マサキは、驚きの表情を浮かべたが、腕越しに温かい体温に触れたら、口
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