第三部 1979年
戦争の陰翳
柵 その2
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をしているが、全身が成長記憶シリコンで覆われており、推論型AIが搭載されていた。
彼女こそ、ソ連科学アカデミーが求めていた物であり、霧山教授が言うところの非炭素構造疑似生命であった。
再び視点を、篁亭に招かれたマサキ達の元に戻してみよう。
篁の関心は、先ほどのハイネマンの一件ではなかった。
F‐14の秘密を知りたくて、ミラに会いに来たアイリスディーナの事だった。
ユルゲン・ベルンハルトの事は、男である自分が見ても白皙の美丈夫であることは一目瞭然だった。
白雪のような肌をした、こんな可憐で、清楚な妹がいたとはと、感心するばかりだった。
篁の何時にない不思議な顔色に、ミラは何とも言えない感情の波につつまれた。
きっと夫はこういう美人に気が引かれることがあるのだろうと、ちょっぴり嫉妬めいた気持ちを抱いた。
そういう事を知らないマサキは、茶菓子の羊羹を食べ終えると篁の妻が持って来た麦茶に口を付ける。
氷で冷えた麦茶を上手そうに飲み干すマサキを見て、アイリスディーナは変な質問をした。
「何で木原さんは砂糖やミルクを入れずに、おいしそうに飲むんですか」
マサキは変わったことを言う娘だと思って、最初相手にしなかった。
ミラが気を利かして、冷たい麦茶を用意したのだと。
ドイツ人のアイリスディーナにとって、大麦を煮出して作る麦茶は非常識な飲み物だった。
大麦の代用コーヒーは、ドイツで貧困の代名詞とされ、客に出すのは失礼なものだった。
薄い出がらしのコーヒーを出すのと同じ意味合いで、場合によっては喧嘩になることもあった。
アメリカ人の女学者とは、風変わりな人が多いのだろうか。
そのことに関して怒ることはなかったが、ミルクと砂糖がないことが気になったのだ。
彼女の理解では、マサキが飲んでいるのはブラックのアイスコーヒという認識だった。
その為、机の上に置いてあるスティックシュガーとコーヒーミルクを入れ始めた。
「アイリスディーナ、お前は何をしている?」
アイリスディーナは顔を起こし、マサキの方を見る。
困ったような表情だった。
「アイスコーヒーですよ?何か問題でも」
何かが吹っ切れたのか。
アイリスディーナは、砂糖とミルクを入れた麦茶で唇を濡らした。
「どう、感想は?」
困惑しきったアイリスディーナの表情を、ミラが見て満足そうに聞いた。
彼女にしてみれば、生半可に知ったかぶりをされても可愛げがない。
だがアイリスディーナのように正直に告白したり、表情に表してくれると、同じ外人女性ではありながら母性本能が刺激され、色々と導いてあげたくなる気持ちになるのだ。
「少しは、感想があると思うんだけど……」
返事をうながすと、アイリスディーナは感じ入ったように答えた。
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