第135話『接敵』
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はなく、今は私と同じ姿をした人(ドッペルゲンガー?)に後ろ手を縛られ、跪かされていた。
そして、私と同じような状況の人達が約五十人はこの部屋にいた。日城中の生徒だけでなく、文化祭に来ていた人達も見境なく捕まっているらしい。
「怖いよ、お母さん……」
そう恐怖で声を震わせているのは、私の隣で拘束されている少女。たぶん小学生で、お母さんと一緒に文化祭に遊びに来ていたのだろう。
しかし、彼女が助けを求める母親は近くにいないようで、もしかしたらこの部屋にすらいないのかもしれない。せめて一緒の部屋にしてあげたらいいのにと、この事態を引き起こした犯人と思われる人物を睨みつける。
「……次」
その犯人は黒いフードで顔と姿を隠しながら私達の正面に立ち、フードの奥から視線を私達に向けている。
いかにも謎だらけなその風体。声を発するタイミングは、私達の中から誰か一人を部屋の外に連れ出す時のこの一言だけ。目覚めてからかれこれ三十分は経っているが、犯人の性別が男ということ以外は情報が全く掴めない。
……いや、強いて言えば、きっと彼は魔術師なんだと思う。視界に映る全てが鏡張りだなんて、魔術の仕業でないと説明がつかない。そういった不思議な力が存在していることは既に知っている。
──だから、無関係な人を巻き込むべきじゃないと思った。
『優菜ちゃん!』
あの時、鏡に引きずり込まれる私に手を伸ばした彼の悲痛な声と険しい表情を思い出す。自分を守ることに必死だったはずなのに、彼は私を真っ先に助けようとした。
──だから拒んだ。
今まで散々彼に迷惑をかけてきた。今日一緒にいたのもその贖罪のつもりだった。
だからこれ以上、彼を危険な目に遭わせたくなかった。
みんなが私を許しても、私だけは私を許さない。
「……次」
黒フードの男が指示を出すと、後ろの私が立ち上がり、そのまま私自身も立たされる。次は私の番らしい。
教室ということがわかっても、どこの教室なのか全くわからない。これではさすがのヒーローもすぐには助けに来れないだろう。もしかすると、私が捕まったことさえ知らないかもしれない。でも、誰も悪くない。悪いのは私。
自業自得なのだ。ズルをした子には罰が下る。
一歩ずつ歩かされ、徐々に教室の出口へと近づいていく。出口といっても扉があるのではなく、そこにあるのは周りよりも輪郭が歪んだ鏡。この教室を出て行った人達はみんなここを通って行った。
その鏡に近づく度に、私の姿が大きく映る。絶望に打ちひしがれているような酷い顔だ。何で被害者面してるんだと、嘲笑してみる。鏡の向こうの私も同じ顔をした。
黒フードの男の手が肩に添えられる。すると、目の前の鏡が光り始めた。
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