第四章 (2)
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た。ぱちり、ぱちりと地味な音がして、デスクトップ上は、あっというまにオムライスの画像で埋め尽くされた。
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「よ、よし…これだけあれば、もう3Dだって作れるな」
「作れますよー…作りますかー…」
「いや、今度でいいや。眠いときに悪かったね。もう寝ていいよ」
ビアンキは重たげな瞳をゆっくり開けて、にこりと笑った。
「起きてます」
「え…いや、いいよ。悪いから」
「もう起きちゃったですから。それに」
首を傾げると、珍しく結っていない髪が、さらりと肩からすべり落ちた。
「ご主人さまと、もっと一緒にいたい、ですから」
枕に半分顔を埋め、チェレステの瞳を細めて微笑した。
か…かわいい……
ふわり、と音がしそうな笑顔だ。
毎日、まるで同じ表情の日がない。次から次に、前の日と少しちがう顔と、仕草。日増しに精巧になっている気さえする。
…なんて考え事をしているうちに、心なしかオムライスが冷めてきた気がする。僕は慌てて銀のスプーンをオムライスの山に「さくっ」と刺した。卵が割れて、ふわりとチキンライスの蒸気があがる。よかった、まだ冷めてない。
チキンライスをデミグラスソースがたっぷりかかった半熟の卵にからめて頬張る。程よく空気を含んだ卵が、口の中でぷちっと優しくはじけて、その後に、少しコショウが効いたトマトと鶏の風味が押し寄せてきた。…母さんが作るケチャップオムライスとは明らかに違う。何をどうしたら、こんな風になるんだ?
「ご主人さま、おいしいですか?」
ビアンキの問いかけが遠くに聞こえる。僕は口いっぱいにオムライスを頬張ったまま、うんうんと頷いた。
「ご主人さまは、オムライスが大好きなんですね」
水を飲んで一息つくと、僕は顔を上げた。
「今この瞬間だけで言うなら、世界で一番、大好きだよ」
ぱちり、と音がした。ビアンキがまだ、オムライスを撮っているらしい。
「もういいって。形、崩れたし」
「…いいんです!」
ビアンキは、ふふんと笑って画像を一枚、背中に隠した。
今日は神経が昂ぶって、眠れなくなりそうな気がする。多分夜更けを大分過ぎて、朝日が昇り始めたころに、ようやく眠気が訪れるのだろう。僕はふかふかのオムライスを頬張りながら、明日の一限を諦めた。
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