第四章 (2)
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になったら悲惨すぎて目も当てられない。仕方なく、渾身の力を込めて顎を上げる。……鼻腔に、ふわっと暖かい湯気が入ってきた。
「……オムレツ?」
いや、オムライスだ。こんもりした黄金色の半熟卵の隙間に、チキンライスが隠れている。オムライスの存在を認めた一瞬、眩暈がした。僕の中で、オムライスと6畳間との因果関係が結びつかない。
…なぜ、ここにオムライスが?
どうして、手も付けられず、湯気が立った状態で置いてある?
あ、スープも添えてある。
『遅いから、勝手にご飯作って食べた』
ついさっき柚木が言っていた、この一言が頭をよぎった瞬間、ものすごい勢いで因果関係のパズルが構築されて、頭の中で何かが弾けた。弾けて、もうもうと煙る意識のその向こう側に、ありえないパズルの完成図が、うっすらと姿を現した……
……柚木が、僕に?
そっと、皿に触れてみる。……まだ暖かい。間違いなく作りたてだ。
「……柚木!?」
まだ遠くには行っていないはずだ。僕は咄嗟にきびすを返し、サンダルを適当につっかけると勢いよくドアを開けた。
「柚………」
柚木は、いた。
自転車のチェーンがねじれてうまく外れないらしく、チカチカ点滅する街灯の下で、微妙にもがいていた。
うわ、自転車泥棒してるひとみたい……
なんか手伝おうかと声をかけようとすると、キッと睨まれた。どうしていいか分からず、再びぱたり、と扉を閉める。
……午前一時のハト時計みたいだ。
やがて、自転車が遠ざかっていく音が聞こえた。
柚木の気配が完全に消えた瞬間、口の端がつり上がるのを押さえきれなくなっている自分に気がついた。
あぁ、これが……なんかよく分からないけど生涯初めての、女子の手料理!
ここが壁の薄い下宿じゃなければ『ヨーデル食べ放題』とか大熱唱しながら踊りまわってしまいたい!
柚木が初めて下宿に来た新入生時代の『ブランデーグラスをカラカラ言わせながら腕枕』の妄想も、俄かに現実味を帯びてきた気さえしてきた。
とりあえず夜も遅いし、あまり浮かれすぎると近所に迷惑なので「ビールは別料金〜♪」と、ぼそぼそ呟きながらビアンキを起動する。
「……おはようございますぅ」
ビアンキが眠い目をこすりながら起動する。『良い子時間』設定にしているので、夜10時以降に起動すると、枕をかかえて眠そうに起きてくるのだ。眠そうなビアンキも、もっと鑑賞していたいけれど、今は一刻を争う。
「夜分にすまないね、ビアンキ。早速だが、とても重要なお願いがあるんだ」
「…ん?」
「このオムライスを、画像に収めてくれ!卵の半熟加減から、湯気の質感まで余すところなく、鮮やかに!」
「………はぁ」
眠そうな目で、こっくりとうなずく。…10秒くらいしてから、備付のカメラが微かに動い
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