第四章 (2)
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者の中の一人だ」
紺野さんは、わずかに眉をひそめて目を伏せた。
「腎臓を患っている。定期的な透析が必要で、失踪なんかしたら、生きていられるはずがないんだ……」
「紺野さん……」
「もう、1週間になる」
「…ご家族は?」
「なんか知らないが、ほぼ無関心だ。心当たりを聞き出すのが精一杯だよ」
「そんな状況だったら…ぼくになんか頼むんじゃなくて、ちゃんと警察に頼んだ方がいいでしょうに!」
「そんなのはもう、病院が頼んでいる」
紺野さんは少しいらついたように顔を上げた。
「警察は、具体的な事件が起こらないと動かない。探偵も雇ったが、失踪の前兆も、失踪の理由も無さ過ぎてお手上げらしい」
「無いとは限らないよ。…よく分からないけど、透析って辛いんでしょ。家族も支えになってくれないなら、なおさら…」
「自殺はありえないんだよ!」
ダン!と拳をテーブルに打ちつけた。周りのテーブルの子が数人、ぴくっと反応した。文科系女子は、あまり動揺を表に出さない。ひたすら、寒い日のハトのように、首をすくめて嵐が過ぎ去るのを待つのだ。ちょっと面白い…紺野さんは視線を泳がせてから、再び目を伏せた。
「……すまん。接続している形跡があるんだよ」
「接続!?その、彼が!?」
「あいつに渡したMOGMOGαのシリアルを控えてあるんだが、同じシリアルのMOGMOGαが、確かにWEB上で毎日稼動している形跡があるんだ」
「場所は、特定できないの?」
「IPアドレスを追跡して接続地を追ってはいるんだが…」
「…IPアドレス?」
「…ひらたく言えば、パソコン一台一台に割り振られた識別番号だ。それを追跡すると、どのへんでアクセスしたか、大体の位置が把握できる。こいつのパソコンにMOGMOGαをインストールする際、IPアドレスも収集しておいた」
(それ、犯罪…いやいや)「じゃあ、どのへんにいるか分かるのか!」
「いや、ちょっと追跡が難航している。IPアドレスを新たに取得し直されたら完全にお手上げだが、今のところはその様子はない。…そもそも、MOGMOGαは優秀なセキュリティソフトだ。簡単に接続地をばらすようなヘマはしないよ。…感触としては、多分都内、としか言えないな、今の時点では」
「…そうなんだ」
……お手上げだ。どこか地方にでも行っているというのなら、まだ見つけやすい。ただでさえ人が少ないうえ、そんな具合悪そうな人間がふらふらしていれば、嫌でも地元民の目にとまるだろう。
だけど、東京はちがう。
何かの本で読んだことがある。
「失踪する際、もっとも理想的な潜伏先は『都内』だ」。
人も車も多くて、互いが互いに無関心な東京は、人知れず生きていくのに、とても適している。具合の悪いお年寄りが、両隣に住人がいるマンションで、異臭と共に白骨化した状態で見
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