第一章
[2]次話
氷の都
サンクトペテルブルグに来てだ、ハバナで医者をしているマルチェロ=コルテス分厚い唇と縮れた短い赤髪を持っている長身のアフリカ系の彼は言った。かなりの厚着である。彼は今学会の発表でこの街に来ているのだ。
「いや、寒いね」
「北極圏でしかも冬ですからね」
同行しているハンガリーの医者フェレンツ=がポールが応えた。ハンガリーはアジアケイ国家であるのでフェレンツが姓である。彼も医学者で学会に参加する為にこの街に来ているが二人は以前より度々学会で顔を見合わせていて知人同士であるのだ。
「それもです」
「当然ですね」
「はい、ですがコルテスさんはこの街は」
「はじめてです」
コルテスは凍てついた街の中で話した、全てが氷と雪に覆われていてその下に透明で石造りの欧州の街が見える。
「ロシアはモスクワはありますが」
「この街はですね」
「モスクワに行ったのは三年前の夏で」
「夏だとましですね」
「はい、ですが今のこの街は」
冬のサンクトペテルブルグはというと。
「実にです」
「寒いですね」
「熱帯の人間には特に」
コルテスはフェレンツに笑って話した。
「厳しいですね」
「そうですね、寒い欧州の人間からしてみても」
フェレンツはそのコルテスに応えた話した。
「この寒さはです」
「かなりですね」
「堪えます、ですがロシア第二の都市で」
このサンクトペテルブルグはというのだ。
「かつては都でした」
「ロマノフ朝時代ですね」
「そうでしたからね」
「凄いことですね。こんな寒い街が首都で」
コルテスはそれでと話した。
「多くの人が今も暮らしていますね」
「左様です」
「信じられません、ですが」
ここでコルテスはこうも言った。
「奇麗ですね」
「そう言われますか」
「はい」
そうだと言うのだった。
「これは南国の氷をあまり知らない者の言葉かも知れませんが」
「それでもですか」
「奇麗です、氷と雪に覆われ」
そうしてというのだ。
「銀色に輝きその下に欧州の古い白とオレンジの街が透けて見える」
「そうした街がですか」
「この世のものとは思えません」
こう言うのだった。
「橋も運河も多く」
「そういったものもですね」
「今は全て凍っていますが」
そういったものもというのだ。
「ですが」
「そういったものもまた」
「奇麗です、幻想的ですらありますね」
「そう言われますか」
「暮らすには大変でも」
あまりもの寒さそれに氷と雪によってというのだ。
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