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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第二十五章―過去との決別―#10
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いは────ザレムの首にかかっているペンダントと、手に握られた魔術陣だ。

 “氷姫”が掌からセレナの魔力を大量に吸い上げて────今までになく、強い光を迸らせた。

 “氷姫”がセレナのイメージを読み取り、セレナの目の前に二つの魔術陣が即座に展開する。それぞれの魔術陣から吐き出された氷刃が、セレナが思い描いた通りに飛んでいった。

 氷刃が起こした奔流が風となって、セレナの髪をふわりと舞い上げる。

(何かしら───何だか、とても熱い気がする。でも、すごく身体が軽い…)

 そんなことを思いながらも、氷刃に目を向けていたセレナは───ラムルとハルドが自分を見て驚愕していることに、まったく気づかなかった。


※※※


 “落ち零れ”────ザレムのことを、そう呼んだのは実の父だ。

 その由来は、魔力量は申し分がないのに、父とは違い、“氷姫”をうまく発動することができないからとのことだった。

 ザレムは、父に何度も黙って罵られながらも、内心では反発していた。自分が“落ち零れ”だからではなく────“氷姫”が、取り扱いの難しい魔術陣であるだけだ、と。

 加えて───先代ベイラリオ侯爵が自身の孫であるジェミナが“ディルカリダ側妃の再来”だと提唱し始めたことも、ザレムが父に疎まれる一因となった。

 ジェミナがディルカリダ側妃の再来であるという根拠は、その“青い髪色”だと言う。

 ディルカリダ側妃と関係が深く、エルダニア王家と縁づいたこともあったディルカリド家を差し置いて、そんなことを言い出した先代ベイラリオ侯爵に憤慨した父は、虚構に過ぎないと吐き捨てつつも───ザレムの髪色が青ではなく母譲りの茶色であることでも、ザレムを罵るようになった。


 ザレムは父を憎んでいたが、それ以上に───髪色が青系統というだけで、自身は美貌も才覚も持たないくせに、美醜で他人の優劣をつけるジェミナを憎悪していた。

 美男子とは言い難いザレムを侮り、美貌はあっても才覚のない輩を優遇するジェミナを、何度(くび)り殺してやりたいと思ったことか。

 だから────長男のゲレトが青い髪色を持って生まれたとき、ザレムは狂喜した。ジェミナなどではなく、この子こそが───自分の血を分けた我が子こそが、彼のディルカリダ側妃の再来だ────と。

 すでにこの世にはいない父のことも、これで見返せたような気がした。


 セレナを“落ち零れ”と称して冷遇したのは、自分より魔力量が少ないということも当然あったが───その髪色も理由の一つだった。

 セレナの青味がかった白髪は、ゲレトの紺色に比べ色味が薄く───同じ青系統な分、劣っているという印象が増した。

 ザレムが有能であることの証明にならない娘など
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