暁 〜小説投稿サイト〜
コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第二十五章―過去との決別―#7
[4/9]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
ド公女の持つ両手剣に引き付けられたように───1頭の魔獣が、奥の空間から抜け出して、舞台上へと片足を乗り上げた。

 魔獣の重みで舞台は大きく軋み、その足元に蜘蛛の巣のような亀裂が走って───魔術式を護る2つのガゼボが、それぞれ魔獣の硬い腕や太腿に当たって、あっけなく崩れる。

「や、やだ…、こないで…!」

 泣きそうに顔を歪めながら、イルノラド公女が震える声で叫ぶ。

 カデアは、その様を冷めた眼で見ていた。今なら助けようと思えば助けられる。だけど────カデアにそのつもりはなかった。

 カデア単独では2頭の魔獣を倒すことが困難である以上、ここで中途半端に手を出す意味はない。優先すべきは、ルガレドの安全だ。

 それに────あの公女がリゼラを苦しめたことは、リゼラを大事に思っているカデアにとって、到底許せるものではない。

 もし、リゼラがイルノラド公女の死を悲しむようであったなら、カデアも危険を冒して何とか助けようとしたかもしれない。

 だが、リゼラが悲しむとは思えなかった。


 イルノラド公女は、助けを求めて後ろを振り返る。そして────ジェスレムの表情を見て、愕然となった。

 ジェスレムは、心底楽しそうに笑っていた。まるで────イルノラド公女が魔獣に殺されることが、愉しくて仕方がないというように。

 これには────冷めた目で見ていたはずのカデアも、呆気にとられてしまった。

「本当に────歪んでいるな…」

 カデアが零すよりも早く、傍らにいるエデルがそう零した。一瞬だけ、それに気を取られ────また舞台に視線を戻した瞬間だった。

 魔獣は───その太く毛深い右腕を、ただ左右に大きく振っだけのように見えた。イルノラド公女が吹き飛び───向かい側の壁に激突して、ずるずると床に滑り落ちる。

 魔獣の右手には、イルノラド公女のちぎれた両腕が握られていた。

 その両手が緩み、掴んでいた両手剣が、ガラン────と音を響かせて、舞台上に転がった。

 魔獣がその両手剣を拾おうと屈み込んだとき───とうとう魔獣の重みに耐え切れなくなった舞台が、まるで口を開けたかのように崩れ───舞台を構成していた建材ごと、魔獣の巨体を呑み込む。

 突然の出来事に、カデアやグラゼニ子爵一家のみならず、あのジェスレムまでもが驚きを隠せず、誰もが唖然とした表情で立ち尽くした。


「な────何があった…?おい、お前、見て来い!」

 ジェスレムが、グラゼニ子爵家の護衛らしき男に命じる。

 その男は躊躇いつつも、命令通りに確かめようと辛うじて残っている舞台の端に上った。男が覗き込んだ、そのとき────不意に、魔獣を呑み込んだ巨大な穴から、眼を焼くような眩い光が迸った。

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ