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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第二十五章―過去との決別―#6
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 ルガレドの魔力が床に傾れ込み───まるで獲物を捕える蜘蛛の巣のように、巨大な魔術式が瞬時に展開する。

 ルガレドとレナスの今いる場所が、先程、魔獣たちが蹲っていたところだったと思い当たったときには、もう遅かった。

 魔術式が発動し────ルガレドとレナスは、瞬く間もなく眩い光に包まれた。

「…っぐ」

 烈しい頭痛に襲われ、ルガレドは膝をつく。傍にいるはずのレナスを気にする余裕もない。耳の奥で、心臓の鼓動が鳴り響いている気がした。


 そんな中、不意に思い浮かんだのは────少し癖のある艶やかな銀髪を項で括り、片手剣を手に微笑む女性。

 ああ、これは────母だ。

 自然にそう考え、すぐに違和感が湧く。

(そんなはずがない───母上は脆弱で、剣を振るうことなどできなかった)

 では、この人は誰だ?今は亡き母によく似た────この女性は?

 そんな疑問を抱いたのも束の間────今度は、何処かの邸宅が思い浮かぶ。ルガレドとリゼラが帰るべきあの邸とは比べ物にならない────贅を凝らした大きな邸。

 ラムルではない───朗らかに笑う執事と、何人もの侍女と侍従が並んで、ルガレドを丁重に出迎える。

 ああ────これは、俺の生まれ育った邸だ。

 またもや、そんなことを考え────すぐに打ち消す。

(違う────俺が生まれ育ったのは、リゼと暮らすあの邸だ)

 次々に甦る、身に覚えのない────けれど、知っている記憶。ルガレドが生きる今とは、まるで違うようで────何処か似ている。

 父と母、それに皇妃と異母兄、第三側妃と異母弟───皆に祝福される中で臨んだ───契約の儀。ファルリエム辺境伯家門の男爵令息を親衛騎士に迎え───()()()()()()()()()()、交わされた契約。

 その3ヵ月後の辞令式で、父である皇王より賜った────護国の将軍となった証である宝剣。

 そして、その5年後────

(ああ…、そうだ────俺は、皆に見送られて皇都を出立した。突如、侵略してきたミアトリディニア帝国軍を迎え撃つために────)

 ルガレドは、なすすべもなく、昏く澱む記憶の濁流に呑み込まれていく。

 意識が途切れる直前────その唇から、愛しい少女の名が零れたが、ルガレドに自覚はなかった。

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