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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第二十五章―過去との決別―#2
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な門を潜る。

 初めて来たような態を装い、きょろきょろと周囲を見回していると、ちょうど教会から出て来た若い男と目が合った。

「ちょっと聞きたいんだが…」
「…何だ?」

 男はエデルを胡散臭そうに見て、明らかに面倒だと思っている表情で、横柄に問い返してきた。

 エデルは、その男に見覚えがあった。ゾアブラを護衛していた男たちの一人────皇妃の元専属騎士だという男だ。

 男は、髪を整えずに下ろして平民が着るような安物の服を身に纏ってはいるが、平民を装えていない。

 とういうよりも───その相手を見下す眼差しと声音から、自分の現況を不服に思っており、平民を装うつもりもないことが────ありありと見て取れる。

 男の方は───エデルがあのとき殺し損ねた男であるとは、まったく気づいていないようだ。

「墓参りに来たんだが、勝手に行っていいのかい?それと、無縁墓地はどの辺りにあるんだ?」
「勝手にするといい。無縁墓地の場所は、自分で探せ。そんなことで手を煩わせるな」

 “無縁墓地”と聞いて───男の態度はますます居丈高になった。

「…そうかい。それじゃ、勝手にさせてもらうよ」

 エデルにしてみれば、この男など、生家で見た連中に比べたら可愛らしいものだが────ちょっと不快に感じているような表情を作って、墓地へ向かうべく男から離れた。

 無縁墓地を探している振りをして、辺りを見回しながら歩き回る。墓地には、エデルの他は誰もいない。


 先程の男が熊手を片手に墓地に入ってくるのが目の端に映った。

 男は熊手を構えて、所々に植えられた木々の落ち葉を集め始めた。嫌々やっているのを隠そうとせず、1ヵ所にずいぶん時間をかけている。

 しばらくの間、無縁墓地を探すようにうろつきながら、男をさりげなく観察していたエデルは、この墓地内では大樹に入る太い木の後ろに誰か隠れていることに気づいた。

 いつの間にか現れたその人物は、明らかに、こちらの動向を窺っている。

 エデルは、さも、歩き回っていてやっと探り当てたかのように───無縁墓地に向かう。

 ここへ来る途中で貰った白い花を、自分の背丈ほどもある簡素な石碑の台座に置いた。

 こちらを窺う人物にはエデルの顔は見えないだろうが、それでも沈痛な面持ちを装ってから────祈りを捧げているらしく見えるよう、瞼を閉じて項垂れた。

 少し間を置いて、眼を開けて、ゆっくりと顔を上げる。寂し気だけれど、何処か満足したような表情を浮かべて、エデルは無縁墓地を後にした。

 あちこちに点在する墓石の間を縫うようにして、門の方へとゆったりとした足取りで歩いて行く。

 木の陰に隠れていた人物が、エデルを追って来る気配はない。


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