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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第二十二章―明かされる因縁―#6
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感はしていなかった。

 だけど────ようやくそう思える。

 この人は、あの母親にそう言い聞かされて育ったから、ああいう風になってしまったのだと────

「15歳になって───騎士見習いとなったとき…、俺は、驚いた。見習い仲間は───神託になど…、誰も重きを置いてはいなかったんだ。自分の神託が“農民”でも、“馬屋”でも…、気にも留めていなくて───中には受けてすらいないという者までいて────本当に…、驚いた」

 当時のことを思い出しているのか────公子は、口元に小さく笑みを浮かべる。

「神託に拘っていた自分がバカバカしくなってな…。だって────神託が“木こり”だっていう奴の方が、俺より強いんだぜ?」

 私に語っているのだということを一瞬忘れていたのか、公子の笑みが深くなる。公子の声音には親しみが滲んでいて────ピンとくるものがあり、公子の傍に控えている騎士に、私は目を向けた。

 私の視線に気づいた騎士は、何となく決まり悪そうに、身じろいだ。

 あ、やっぱり────この人のことなんだ。

「俺は────今…、毎日がとても充実している。神託を気にすることなく───ただ、がむしゃらに修行して…、こうして────“デノンの騎士”となることができた。今は、小隊長を任され────仲間もいい奴らばかりだ」

 公子は表情を引き締めて、俯き加減だった顔を上げて────私を見る。

「ずっと────お前のことが気にかかっていた…。俺たちの───俺が言った言葉のせいで…、お前が、自分のことを“出来損ない”と思い込んでしまっているのではないか───と」

「え…?」

「お前を“出来損ない”と言った、俺たちの言葉は嘘だ。この世界は────神託がすべてじゃない。お前は…、“出来損ない”ではないと────ただ、それだけ伝えておきたかったんだ」

「ただ────それを…、私に伝えるだけのために…?」
「ああ」

 謝罪して…、自分の罪悪感を消すためではなく────私にその言葉を、伝えるだけのために…?怒りを露にしたレド様に逆らってまで…?

「………」

 込み上げる複雑な思いを噛み砕くように────私は瞼を閉じる。

 この人に言われた数々の言葉を───あのときの…、何処にも持っていきようのない悔しい気持ちを───心の底で燻っている怒りを、忘れられたわけではない。だけど────もう、いい。

 この人は────私を思いやってくれた。

 だから────もう、いい。

 私は、自分の複雑な思いを呑み下すと────瞼を開き、視線を上げた。

「…貴方が気に病む必要はないです。私は────自分が“出来損ない”などとは思っていませんから」

 この人には、話しても────いや
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