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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第二十二章―明かされる因縁―#6
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エム子爵と直接話をさせていただけないでしょうか」

 少し困ったようにそう言った公子に、レド様は、相手を射殺すことができそうなほど凍てついた視線を向けた。

 いや、まあ、レド様のお気持ちは嬉しいけど────公子の言う通り、直接話すべきだろう。

「レド様」

 レド様は溜息を一つ吐き、口を噤む。私は、半歩だけ前に出て、レド様に替わり口を開いた。

「イルノラド公爵公子、お話を伺いましょう」

 私が言うと、公子は、がばりと音がしそうなほど、勢いよく────全身に鎧を纏っているにも関わらず、器用に腰を折って頭を下げた。

「これまで、本当に────すまなかった。お前に対して、俺が言い放った罵詈雑言の数々────そして…、お前の苦境を知っていたのに、見て見ぬ振りをしたこと────本当に…、本当に────すまない…」

 公子の声は震えていた。

 親衛騎士としてレド様に忠誠を誓ったあの日────イルノラド公爵の側近が、謝罪をされても私は不快なだけだろうと言っていた。私自身、そう思っていた。

 だけど────不快感は湧き上がってはこなかった。

「許して欲しいわけじゃない。許してくれなくてもいい。ただ────俺の話を聴いて欲しいんだ」

 私は無言で頷き、先を促す。

「俺は…、ずっと────自分の神託を恥じていたんだ。父上の“剣聖”や、ファミラの“剣姫”に比べたら────小物のように感じていた。英雄伝に出てくるような“将軍”や、父上のような“騎士団長”にはなれないのだと────将来はただの平凡な一騎士で終わるのだと────そう決められてしまったようで…、ずっと────絶望していたんだ」

 公子は言葉を切って、痛みを感じているような表情を浮かべる。

「母上が…、ファミラの神託を褒めるたび────ファミラの華々しい将来を思い描いてそれを語るたび…、俺は…、羨ましくて────妬ましくて仕方がなかったんだ。あの頃────俺は、神託がすべてだと信じていた。王侯貴族も、平民ですらも────人は皆、神託の通りに生き────神託で告げられた職業にしか就かないのだと…、本気で信じていた。だから────お前のことも…、不完全な神託を与えられた出来損ないの子だと────母上が言うがまま…、本当に信じていた────」

 そうして────再び言葉を切った公子の表情が…、自嘲するような表情に替わった。

 そうだ───この人も、ハルドと同じだ。

 母親が世界の大半を占める幼少期にあって───その母親から…、偏った価値観を押し付けられただけだ。

 あの狭い世界で────他の見方や考え方を育めるはずがない。

 私の置かれた環境の事情を推察していて────そうだろうとは、頭で考えていた。でも────実
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