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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第二十一章―ファルリエムの忘れ形見―#6
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ム辺境伯家が消えた今、俺という存在など気にする必要はない…」

 ディンド卿は自嘲の表情のまま、口元を小さく歪めて苦笑して────独白を続ける。

「それでも────何とか気持ちを奮い立たせて…、この皇都まで辿り着きました。ルガレド様の情報を集め…、どうにかしてラムルと連絡を取ろうとした矢先────リゼラ様…、貴女が現れた────」

「…え───私?」

 突然、自分のことを言及され───私は眼を瞬かせた。

 ディンド卿が顔を上げ、私に向ける。

「貴女は…、あの場にいた者たちを一瞬で掌握し───烏合の衆を見事に采配してみせた。挙句、魔獣すら単独で討った。貴女のような人が傍にいるのなら────ルガレド様には俺なんて必要ない…。貴女なら────貴女が俺の立場だったなら…、きっと────ファルリエム辺境伯家も、バルドア傭兵団も、護り抜くことができたのだろうな…」

 ディンド卿はそこで言葉を切り────また俯き、瞼を閉じた。

「俺の人生とは────何だったのか…。本当に────俺は…、一体、何のために────エルに…、エルに合わせる顔がない────」

 ディンド卿は両手で顔を覆い、懺悔の言葉を漏らす。

「ちょ───ちょっと、待ってください、ディンド卿…!」

 ようやく我に返った私は、慌ててディンド卿を遮る。

「それは買い被りです、ディンド卿。確かに、私は冒険者としては経験が長いですし、魔獣を単独で撃破できるくらいには力をつけました。ですが、それだけなんです。人の上に立ち────導けるような才覚があるわけではないんです…!」

「そんなことはない。貴女には指揮官としての才がある。冷遇されていたと聞いているが────さすがは、軍門イルノラド公爵家のご令嬢だ。騎士を率いるべく育てられたのだということが判る」

「っ!」

 ディンド卿の言葉に、すっと感情が凪いだ。

「ディンド卿────やはり…、貴方は勘違いをしておられます」

 自分で思ったよりも───声が低くなった。私の様子に驚いたのか、ディンド卿が眼を見開いている。

「私は…、あの家で───教育は一切受けておりません。ああ…、いえ───『一切』というのは語弊がありますね。簡単な言葉と文字以外のことは───本当に、何も習わせてもらったことはないのです。それどころか───6歳のときから、除籍されるまでのこの10年間、食事や服など…、生きるために必要なものすら与えてもらったことはありませんでした」

「それは────どういうことだ…?」

 自嘲の表情が驚愕に取って替わったディンド卿は、驚きのあまり素の口調で問う。

「ご存じの通り────この国では、王侯貴族として生を受けた者は、6歳になったら神託を受けなければなりま
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