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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第二十一章―ファルリエムの忘れ形見―#4
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キーを齧るセレナさんが可愛くて、私は笑みを零した。

 もう成人している年上の女性に“可愛い”は失礼かな。

「もしかして────これ、リゼラさんが作ったんですか…?」
「はい」

 私が頷くと、セレナさんはクッキーを持つ右手を下げ────目を伏せた。

「リゼラさんは────凄いですね…。何でもできてしまう…」
「セレナさん?」

「私───魔術の発動すら…、上手くできなくて────やっぱり落ち零れなんだなって実感しました…」
「え、そうですか?確かに何回か失敗しましたが、形状を変えることもできるようになったじゃないですか。上手くできていたと思いますけど…」

 セレナさんが突然、後ろ向きなことを言い出したので────私は首を傾げた。

 私には、セレナさんが落ち零れだなんて思えないけど。

「だって────1回でできなかったのに…」
「もしかして…、私が一発であの魔術の強い威力を発揮できたからですか?───だとしたら、思い違いですよ。言ったじゃないですか。私は魔法を使う、と。あれは───元々、魔力を扱う訓練をしていたからこそ、できたんです。私だって───ちゃんと訓練や鍛練、習練をしているんです。それに…、失敗することだってあります」
「────そうなのですか…?」

 セレナさんは、本当に驚いているように見える。

 本気で、1回でできないのは落ち零れだからだと思っているみたいだ。誰かに、そう吹き込まれたのだろうか────例えば…、家族とかに。

「セレナさんは落ち零れではないですよ。1回でできてしまう天才ではないかもしれないけど────それでも、落ち零れなんかでは────絶対ないです」

 長い時間をかけて刷り込まれた観念は、そう簡単には覆せないだろう。だけど、少しでも、それを揺るがせたら────そんなことを思いながら、私は断言した。

 セレナさんは、眼を見開いた後────その磨き上げられたような瑠璃色の双眸を潤ませた。

「ありがとうございます…、リゼラさん」

 私の言葉が、少しは、セレナさんに響いたようで────嬉しくなった。

 これから、その刷り込みが消えるまで、言葉を重ねていこうと心に決める。いつか、セレナさんが、自分を落ち零れだなんて卑下することがなくなるように────


 それにしても────セレナさんの魔力量は、レド様や私には及ばないにしても、今のジグやレナスに匹敵するくらいにはある。
 これでも落ち零れ扱いを受けるなんて、セレナさんの兄弟はそんなに魔力量が多かったのだろうか?

「ほら、お嬢────ワシの言った通りだろ?お嬢は落ち零れなんかじゃないって」

 ヴァルトさんが、朗らかな笑みを浮かべて言う。セレナさんに向けられたその眼は、優しさ
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