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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第十三章―愚か者たちの戯言―#6
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「ええ、お疲れ様でした」

 応えたのは────ビバルでなく、執事服の老人。そして、言葉を続けたのも、その老人だった。

「さて…、ビバルさん」
「!?」

 名乗った覚えがないのに老人に名を呼ばれたことに、絶望も忘れて、ビバルは反射的に顔を上げる。

 そこにいたのは、出会ったときの眦を下げたあの気弱な老人などではなかった。

 服装や髪型は何も変わってない。だが、その表情が───醸す雰囲気が、まるで違った。

 老人は、その細い眼を見開いて、酷薄な────そう、ゲドがビバルに向けたような────慈悲など欠片も見当たらない凍てついた瞳で、ビバルを見下ろしている。

「いや────ビバル。もう十分…、自分の人生を楽しんだだろう?それも、もう終わりだ。我らが主を虐げたその罪────存分に償ってもらうぞ」

 老人の重みを帯びた低い声が、ビバルの中に染み渡る。

 老人の後ろで、あの少年が口元を歪めて笑うのが見えた。勝ち気で傲慢そうな印象は鳴りを潜め、老人に似た凍てついた双眸でこちらを見ている。

 少年は、瞳の色こそ違うものの、白銀の髪とその面立ちが────ルガレド皇子を思わせた。

 そうか、と思う。これは────ビバルがルガレド皇子に仕出かしたことへの報復なのだ。

 嵌められたとは思わない。それだけのことをしてきたという自覚はあった。

 ビバルの────それもボードゲームで負けたという、しょうもない借金を返すためだけに、ルガレド皇子は困窮することを余儀なくされたのだ。

 長い間、邸を改修することも補修することも叶わず、新しい礼服や夜会服を誂えることもできず────皇妃や貴族たちに笑いものにされていた。

 魔獣討伐に参加させられたときも、ビバルが準備金を掠め取ったせいで、質の良い武具を手に入れることができずに、下級兵士に支給される武具を携えて魔獣に挑んだと聞く。

 報復されて────当然だ。

「お前には────ドラテニワの鉱山に行ってもらう。残りの人生かけて────存分に償え」

 いつからいたのか、ビバルの背後の大柄な男たちが、ビバルを乱暴に引っ立てた。

 ビバルには、もう逆らう気力はなかった。逆らったところで────もう、どうしようもない。

 ああ、どうして────ルガレド皇子の予算になど手を付けてしまったのだろう…。

 どうして────どうして、あのとき、“賭けゲーム”になど手を出してしまったのだろう…。

 ビバルの胸の内は、これからのことを暗示するように─────ただ後悔だけが占めていた。

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