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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第十二章―忠臣の帰還―#3
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レド様の好物なのだそう。

 ぱっと見はパイに見えるが、パイ生地ではなく薄いパン生地で作るので、厳密には、ミートパイではないらしいけど。

 とにかく、レド様の好物なら覚えておきたいという思惑と、キッチンの仕様が変わってしまったので、説明も兼ねて手伝っていたのだけれど───古代魔術帝国仕様のオーブンが、思ったよりもカデアには難しかったようで。

 古代魔術帝国のオーブンは、私の前世で使われていた“電気式”のオーブンに似ている。“温度”を設定して、“スタートボタン”を押すだけでいいハイテク仕様だ。

 しかも、このオーブン、温めたり、焼くだけでなく、設定温度を下げることで、冷やしたり、凍らせたりまでできる。“冷蔵庫”や“冷凍庫”がないから、これは結構使える機能だ。

 一方、この世界のオーブンは、前世の近代まで使われていたような代物で、薪を燃やしてその熱で料理を焼く。

 魔道具仕様のものもあるにはあるらしいが、コンロなどとは違い、魔道具でオーブンを再現するには使う魔石も多くなる上、複雑になってしまうらしく、普及できるような良品の開発には至っていない。

 だから、王侯貴族や大商人の邸宅でも、使われているのは未だに薪を使うオーブンなのだ。どうせ使うのは、王侯貴族本人たちではなく使用人だしね。

 考えてみたら───今まで、腕を少し入れて熱さを測り、薪の本数などで熱量を調節していたカデアに、「何度で焼くのか」と突然問われても、解るわけがないよね。

 そもそも、温度を測るような計測器みたいなものもなければ、温度という概念すらないのだから。

 これは、本当に盲点だった。

 【潜在記憶(アニマ・レコード)】で以前の仕様に戻そうとしたけれど、やはり他人では検索できないみたいだし、どうやら【最適化(オプティマイズ)】も他人にかける場合は、装備品に限るようだ。

「う〜ん、どうしたものか……」

「リゼ?どうしたんだ?」
「レド様?」

 悩んでいると、そこへレド様がひょっこり顔を出した。

 約2時間前、歓談がお開きになったとき、レド様は私が料理を手伝うなら自分も手伝いたいと言ったのだけれど、カデアに厨房を追い出されたのだ。

「いや、そろそろ、リゼの手伝いは終わったかと思って来てみたのだが…、何かあったのか?」

 私は、レド様に事情を説明する。

「なるほどな…」

「レド様は、変わってしまう前のオーブンの記憶は残っていないのですか?」
「いや…、残ってないな。俺は、リゼが料理を作ってくれるようになるまで、厨房には、あまり足を踏み入れることがなかったからな。中に入ってもオーブンを使うようなこともなかった」

 そっか、そうだよね…。

「カデア、泣くな。オーブンのことは何
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