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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第108話 凶報
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ス氏はこれほどのバカは見たこともないといった表情で俺を見つめている。

「それでも彼女が『帝国のスパイ』であると仰るのであれば、物的証拠と逮捕状をお持ちください。そうでなければ私は信頼する部下の為に、あなた方を名誉棄損で訴えなければならない」
「中佐。これは真剣なお話しなのです。中佐がこれまで頼りにされてきた秘書官の事を信じたいというお気持ちは充分理解できますが、現実はそう甘い話ではないのです」
「ですからその『現実』をご提示いただきたいと申し上げているのです。エルトンさん」

 聞き分けのない孺子をどうにかして説得しようとする伯父さんのようなエルトン氏の、何とも困った表情は傍から見ていて面白かったが、笑うわけにもいかない。その必死さからもチェン秘書官が、今も見事に中央情報局の網を出し抜いていることは分かる。そうなると中央情報局としては軍部が身柄を保護していると考えざるを得ないし、軍情報部に土下座しても教えてくれないとなれば、一番隙が大きそうな俺にアタックをかけるのは仕方ない。
 まるでコントだしここで離席を促せば諦めてくれないかなと思ったが、あの刑事ばりにしつこそうなエルトン氏の事だからまた来るだろうなと、諦めつつゆっくりと腰を上げた時だった。

「世間知らずで男にも女スパイにも尻の毛を抜かれるような奴に何言っても無駄です。エルトン課長。むしろこいつもスパイと思った方がいい」

 出てもいない汗をかくエルトン氏の横から、前世も含めてこれまで聞いたこともない嘲りが籠った言葉が、俺の耳に流れ込んでくる。瞬時に頭の中を流れる血液が沸騰したが、これも良い警官と悪い警官の変異系だろうと理解して、顔の表情筋を苦心して動かし笑顔を作り上げると、ピース氏を可能な限りほほえましさを視線に込めて、俺は口を開き……

「黙れ下種」

 穏やかな音程に乗って出てきた言葉は、頭の中で考えていた台詞とは程遠い俺の深層心理そのものだった。瞬時に脳味噌の半分がヤバいと警告を発しているが、俺の口は止まらない。

「貴様はなんら証拠を提示することもなく俺の部下をスパイと断じた上に、その職務に対してまで侮辱を与えようというのか。貴様の狭い了見と薄汚い性根と発想の卑しさには反吐が出る。我々軍人が前線で命を張って戦っている後で、スパイごっこにうつつを抜かし、人の足を引っ張るしか脳のなさそうな馬鹿面は見るに堪えない」
「……」
「今すぐ俺の神聖なオフィスから出て行け。それとも自分の足で出て行くのは嫌か?」

 自然に出てしまった言葉だったが、言われたピース氏の顔と両手は小刻みに震えている。親愛なる内国安全保障局長と違うのは、いかにも女性にモテそうなスマートな体格ぐらいだろう。同じように上位者であるエルトン氏に救いを求める視線を向けるが、僅か数秒前と違ってエル
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