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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第108話 凶報
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「ウーという人物に関することなんですがね。ウー=キーシャオ」
「ウー=キーシャオ(武妃紗麻)?」
 初めて聞く名前だが、恐らくそれが中央情報局におけるチェン秘書官の名前だろう。だが馬鹿正直に此方から答える必要はない。
「初耳です。名前の響きからしてE式の方のように思えますが」
「はい。おっしゃる通りです。きっと中佐の前でその名前を口にすることはなかったでしょう。中佐の秘書官を勤めているチェン=チュンイェンの、それが別名です」
「別名?」
「はい。他にもいくつか名前を持っておりますが、まぁ名前などいくらでも書き換えられますからね。問題なのは彼女の本性です」

 そう言ってとエルトン氏は仏頂面しているピース氏を肘で促すと、ピース氏はビジネスバッグの中から三次元投影機を内蔵した折り畳み式の端末を取り出し、テーブルの前に広げる。全画面式のそれの数か所を、ピアノを弾くように指で叩くと、一人の女性の胸像が画面から浮き上がる。切れ長の一重の目、小さな鼻と口、頬横で切り揃えられた黒い髪と大きめの胸。チェン秘書官の変装(お化粧)前と言われれば納得できる姿だ。

「この女は一〇年前、亡命者の家族と偽りこの国に潜入した帝国の諜報員だ」

 ようやく口を開いたと思ったら、あまりにも直接的なピース氏の物言いに呆れたが、思わず視線を逸らして見たエルトン氏も、その言い方に困ったといった顔をしながらも肯定するように小さく頷いている。それで俺が納得したと思ったのか、ピース氏は責め立てるように言葉を続ける。

「容姿が幼く見えることを利用し、年齢を偽って我が国の公務員となり、優秀な事務職員としての皮を被って各組織内部に食い込み我が国の機密情報を収集し、フェザーンを通じて帝国に流し込んでいた」

 そんなことは百も承知……と言っては流石に不味いのは分かるが、いきなり帝国の諜報員というのは無理がある。彼女の本当の主を通じて帝国に流出した可能性はあるだろうが、バグダッシュの情報が正しければチェン秘書官はピース氏と同所属の人間だ。その彼女が今更諜報員だというのは虫が良すぎる……

「お言葉ですがピースさん。チェン秘書官が仮にそのウー=キーシャオだとして、いきなり帝国の諜報員というのはいささか信じられません。少なくとも人種的にありえないのではないですか?」
「人種など関係ない。使い捨ての駒であれば猶更だ」
「使い捨ての駒扱いというのであれば、相応の見返りが必要でしょう。有色人種でしかも亡命者であれば、帝国に戻って安定した生活など送れるわけがないから同盟国内に留まざるを得ない。そうなると見返りとして金銭が提供されたとして、使用するのは同盟国内となります。そうなると裏切らないように監視されながら、となるわけですが」

 仮に敵地に在って膨大な報酬を抱え込んだ
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