第一章
[2]次話
同じ仏教でも宗派が違う
小林家は自分が檀家をしている寺と懇意だ、よく寺参りをして仏門のことを学んでお布施も熱心である。
それで家の息子である月信も毎日の様に寺に行って住職に遊んでもらったりお菓子を貰ったりしている、泊まることもしていて彼にとっては第二の家の様なものだった。
「うちは子供がいないからね」
「だからですか」
「跡継ぎがいなくて」
「それで養子を探しているんだ」
初老の住職は家の親によくこう話していた。
「実はね」
「それじゃあ」
「うん、月信君さえよかったら」
彼のことを言うのだった。
「養子に入ってね」
「お寺をですね」
「あの子がですね」
「継いでくれたらね」
そうすればというのだ。
「嬉しいよ」
「ではです」
「あの子にも話してみます」
「うちは下に女の子もいますし」
「鈴蘭が継いでくれたら」
両親は月信の妹の彼女のことも話した、あどけいない顔で黒髪が長く上の部分がはねた小柄な娘である。
「あの娘が婿取りをして」
「それでいいですから」
「それではね」
こうした話をしてだった。
月信は高校を出ると仏教系の大学に進んだ、丸眼鏡で小さな顔で穏やかな顔立ちをしていて黒髪を短くしている。背は一七二位で痩せている。
その彼にだ、鈴蘭は言った。
「仏教系ならもっとレベルの高い大学あって」
「僕の成績なら行けたっていうんだね」
「そうじゃないの?」
「そうはいかないよ」
月信は妹に真面目な顔で答えた。
「あの大学出ないと駄目なんだ」
「どうしてなの?」
「だってお寺継ぐんだよ」
彼も決心して寺の養子になり跡を継ぐことにしたのだ。
「だったらね」
「お坊さんになるのよね」
「お坊さんになるなら」
それならというのだ。
「大学でその資格取らないといけないけれど」
「だったらね」
鈴蘭は兄にそれならと話した。
「同じでしょ」
「もっとレベルの高い大学行って」
「それでね」
そのうえでというのだ。
「お坊さんの資格取ったらいいのに」
「宗派が違うから」
月信は真面目な顔で答えた。
「他の大学にはね」
「行けないの」
「仏教には宗派があるね」
「お兄ちゃんが養子に入るお寺は浄土真宗よね」
「だから浄土真宗のだよ」
「大学に行かないと駄目なの」
「そう、だからね」
それでというのだ。
「あの大学を受験して合格したから」
「入るのね」
「そうしないと駄目なんだ」
「そうなのね」
「仏教も色々あるんだよ」
「宗派が」
「そう、そしてね」
そうであってというのだ。
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