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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第106話 憂国 その6
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さいのか、それとも純粋に能力に不足していたのか。だいぶ時間に余裕があったのは幸いだった。
 言わせるだけ言わせた後、軽く二回、悪霊の肩を叩いた怪物は、扉を閉めるとすぐには席に戻らず、書斎棚の下のところから明らかに隠しているといったウィスキーのボトルを取り出し、グラスも二つ出して両方に注いだ。そして俺が手を伸ばすより早く自分のグラスを手に取ると、それほど多くない中身を一気に喉へと送り込んだ。

「最低でも一ケ月、だそうだ」

 トリューニヒトがそう口を開いたのは、きっかり三分以上経過してからだった。

「いったいどんな魔法を使ったんだろうね。青年労働者は」
「稲妻でも走ったのか、嵐の必殺技でも使ったのかもしれません」
「もしそれが本当ならば、その青年労働者は超人だね」
 アルコール濃度の高い溜息とともに乾いた笑いが、トリューニヒトの口から洩れる。
「軍人とは本当に恐ろしい。いかにも人畜無害といった人間に見えて、ジャケットの下には猛禽が潜んでいる」

 軍人に対する恐怖感はホワン=ルイも語っていた通り。国内で唯一の合法的な暴力組織であり、構成する人間それぞれに心がある。いくら法律や軍規が行動を拘束しようとも、人は自らの信念によって動く。そういった手段と信念を持つ人間が、制度を乗り越え肥大化し、国家の中の国家となることは民主制国家の悪夢であることは十分理解できる。
 トリューニヒトが国防委員長になって以降、人事権を行使してクブルスリーやビュコック爺様の足元に自らの息のかかった人物を送り込んでいったのも、ある意味では軍閥化への恐怖の裏返しなのは原作でも述べられている通りだ。
 シトレに対するトリューニヒトの隔意も、『シトレ閥』と軍内部で公然と囁かれている事への裏返しだろう。逆にシトレのトリューニヒトへの隔意は、軍事ロマンチズムに基づく正しい民主主義国家のあり方との乖離ゆえに。双方の信念とが双方間の交流の無さが、双方が軍政・軍令の最高責任者であるタイミングで、あの致命的な遠征を招いたわけだ。

「トリューニヒト先生」
 俺は目の前ですっかり味が飛んでいそうなウィスキーグラスに左手を伸ばして言った。
「今の私が先生に言うのは脅迫以外の何者でもないですが、私は政治家としての先生の実力はこの国でも随一であると信じております」
「信じるのは君の自由だとも」
 合わせ鏡のように右手でグラスを傾けるトリューニヒトの声はいつもよりも固い。
「しかしね……」
「憂国騎士団を切り捨てろとか、そういう身の程知らずの事は申し上げません。これまでのご縁というのもあるでしょう。ですが、せめて使い方を誤らないように願います」
「……」
「今回はあまりの偶然でしたが、この国の五年後を担われる先生が、このようなことで足元を掬われることがあってはなりま
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