第106話 憂国 その6
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り、言っていることは『寝言』に過ぎない。経済と軍事は主従の関係であって言葉の通りではないが、『寝言』にいちいち反応して武装集団を送り込むような過剰反応はするな、とは伝わるだろう。
もちろんトリューニヒトとてまだ民主主義国家の一政治家であり、政権内で絶対的な勢力を構築するまでには至っていないわけだから、競争相手は早いうちに潰すという意識があってもおかしくはない。だが現時点で直接的に武力を用いるのは政治家としても悪手だ。トリューニヒトが分からないはずがない。それでも踏み切ったということは憂国騎士団自体の手綱が取れていない、と見るべきか。
「なるほど。それも正論だ」
テーブルの上で手を組み、他人を魅了する笑みを浮かべ、トリューニヒトは俺を見つめて言う。
「君は優秀な軍人であり、政治分野にも広い視野と知性を持っているのは理解している」
「それは?」
「私の前職が警察官僚だということは君もご存知のことだとは思うが、出身セクションが公安とまでは知らないだろう。君の馴染みの軍情報部員に聞けば、もしかしたら教えてくれるかもしれないね」
「公安」
「反戦市民連合の前身は平和市民連合協議会と言ってね。ありとあらゆる左派の政治団体が加盟した緩い連合組織だったんだ」
知識としては俺も知っている。協議会が選挙において同盟中央政権に指がかかったことは何度もあったが、その度に協議会から脱落や離反が起こり、あと一歩というところで逃してきた。
それは純粋に内部での党派対立などもあったのだろうが、裏で中央情報局、軍情報部、そしてトリューニヒトのいた同盟警察庁公安部が、色々と工作してきたところもあるだろう。実際に反戦市民連合はソーンダイク氏を半ば追放寸前の状態にしていたし、政治団体としてはほぼ崩壊寸前だった。
「評議会議員を巻き込んだ上で軍内部にシンパを作り、帝国との無条件講和を求めて軍事クーデター寸前だったこともある。勿論その事実は未来永劫公表されることはないだろうが、善良な市民の誰もが持つ平和に対する欲望につけ込んで、帝国側が工作を仕掛けてきたことは一度や二度の話ではないんだよ」
そして今夜。旧職時の仇敵に最期のとどめを刺すべく、憂国騎士団を差し向けたということだろう。それを何も知らない俺は、正義感に絆されて阻止した挙句、その復活に手を貸したというわけだ。さてこの状況を歴史はどう判断するか。他人事なら実に興味深いが、一方の当事者が自分というのは困ったものだ。だが当事者だからこそ言えることもある。
「畑に生える雑草を必要以上に強力な農薬で取り除くのは、畑自体の地力を損ないます。今後もより長く品質の高い収穫物を得たいのであれば、継続的で地味な草取りこそ必要かと私は考えます」
「君の言うのも尤もだ。だがね。相手はミントも裸足で逃げ出すく
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