第106話 憂国 その6
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君にはしばらく前線に出てもらいたい。早急に武勲を上げるには、正規艦隊に居ては何かと不都合だろう」
「小官の希望としては第五艦隊に戻れるのでしたら、どの部署であろうと不平はありません」
「君があの老提督を深く敬愛しているのは分かる。だが私としては『君個人の』武勲をなるべく早く立てて欲しいのだ」
それはモンティージャ大佐が言っていたことと同じだ。第五艦隊に戻ろうとすれば、恐らく爺様は散々嫌味や愚痴を言いながらも司令部に俺の席を作ってくれるだろう。だがそれでは第五艦隊の出動ローテ以外で武勲を上げる機会はなく、あの大侵攻の時点でも准将がせいぜいだ。幕僚としてスピード出世するには、人が恥をかいた時に手柄を立てつつ、艦隊が致命的な危機に陥った時に魔術を披露するしかない。
流石にそんな奇跡をトリューニヒトが想像できるわけではない。ので俺個人の武勲をということから、中佐の身分でそれが叶うのは、最前線付近にある辺境管区配備の哨戒隊指揮官しかない。戦艦一分隊、巡航艦二分隊、駆逐艦二分隊、支援艦一分隊で定数は三五隻。兵員は四五〇〇人から五〇〇〇人。先任旗艦艦長を兼務することになる。だが実際は隊司令の仕事に専従し、旗艦は最先任副長(少佐)が指揮を執る。中佐としては最小クラスとはいえ、一国一城の主という身分だ。
しかし基準赴任期間は二年。新編制で哨戒隊がマトモに定数を編成されることはまずない。そして配備される管区にもよるが、赴任期間における致死率は二五%を超える。損害率ではなく致死率だ。文字通り四隻に一隻は生きて帰れない。
これは本来の意味は飼い犬を虐めた報復か。それとも悪霊の派遣先からの圧力から庇う為か。だが取りあえず俺を軍上層部で使える駒として確保しておきたいという意思は分かる。
しかし現職では前線に出ることはまずないので出世は遅くなる。正規艦隊に幕僚職で入れても同じ。下手をすれば現在は第八艦隊司令官のシトレが干渉してきて?っ攫われる恐れがあるが、哨戒隊ならば所属は宇宙艦隊司令部ではなく統合作戦本部星域管区隷下となるので、統本に圧力をかけておけばいい。まぁ二年の赴任期間のうちに戦死したら、運が無かったと諦めるつもりだろう。実にトリューニヒトらしい他責主義だ。
「君が私を高く評価してくれていると同様に、私も君を高く評価しているんだよ」
正直トリューニヒトの軍人に対する評価など、パストーレやムーアの例を見るまでもなく信用ならない。だが大侵攻を阻止するだけの権威を作る為には、救いがたい暗黙のルールとはいえ目に見える個人の武勲が必要だ。後方勤務で政治家や実業家を動かして阻止しようとしても、中佐のままではできることに限りがあるし、武勲なしでは五年間で大佐になれれば御の字だ。他人の命を出世の種に使う嫌悪に堪えつつも、これは引き受けざるを得
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