第一章
[2]次話
酒塚
宝暦年間の話である。
備前現在の岡山県に飛山長左衛門という者がいた、彼は仏教を篤く信仰していた。
「やはり御仏の教えは忘れてはならない」
「そうですね」
「大切な教えです」
「常に心に留めてです」
「教えを守っていきたいですね」
「あらゆるものに慈悲も忘れず、それでだ」
飛山は周りの者達に話した、太い眉を持つ真面目な顔の大柄な男だ。
「私は一つ思っていることがある」
「と、いいますと」
「どういったことでしょうか」
「一体」
「我々はよく酒を飲むが」
酒の話をするのだった。
「その酒に用いる道具があるな」
「杯や臼ですね」
「瓢箪、樽、丸膳ですね」
「造ったり入れたりするのに用いますね」
「そうしたものを」
「そうしたものの働きを忘れたらいけないですね」
「そうだ、その働きを忘れずまた労る為に」
それ故にというのだ。
「そうしたものの塚を造るか」
「そうされますか」
「道具に働きを忘れず労る為に」
「その為にですね」
「そして酒のことを心掛ける為にな」
こう言ってだった。
全国を行脚して六十六ヶ所にその五つの道具を重ねた形の石塚を設けた。宝暦の頃にこうした人物がいて彼はそれぞれの道具に和歌も残した。
だが時が経ちこの話は忘れられてしまっていた、そんな中で。
沼津の日緬寺の住職、結城瑞光は夜般若湯を飲んでいた。それで共に飲んでいた弟子がかなり酔ったのを見て言った。
「そなたはもうこれでな」
「飲むのを止めて」
「寝るがいい、拙僧もこれでな」
「止められて」
「そして寝る」
かなり酔った赤い顔で言った、太い眉で明るい顔立ちだ
「この部屋でな」
「そうされますか」
「ここに布団を敷いて」
そうしてというのだ。
「寝る、そして明日もな」
「修行に学問に励むのですね」
「檀家の人達ともお話をするぞ」
「わかりました」
弟子は笑顔で応えた、そしてだった。
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