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冥王来訪
第三部 1979年
戦争の陰翳
険しい道 その3
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は、「モスクワの許しがなければ、ミルケ長官は放屁さえできなかった」と嘆くほどであった。
 シュタージが、KGB以外を信じなかったのはなぜか?  
KGB当局による締め付けが極めて厳しい事ばかりではない。
 ときおり、東側の対外諜報機関関係者が亡命をしたことも大きかろう。
直近で言えば、1978年のルーマニア対外諜報機関、国家保安局(セクリターテ)の長官、イオン・ミハイ・パチェパの亡命である。
チャウシェスク大統領の政治顧問を務め、対米外交を主導した人物の政治亡命の衝撃は、計り知れなかった。
 後に、パチェパの政治亡命は、シュタージの高官亡命事件を引き起こす遠因の一つになるのだが、この話は後日の機会に改めて紹介しよう。


 対外諜報を行う機関の失態に関して、批判はすさまじかった。
ヴォルフの後任、ヴェルナー・グロスマン大将は、平謝りに詫びいるばかりであった
 一連の事件の失敗を、KGBの手法を取り入れたミルケ、ヴォルフの両人に原因があるとし、問題のうやむや化を図った。
一連の失敗は、自分に責はなく、それをそのまま実行した5人の副局長の手法であるとまで言い切った。 
 面白くないのは、5人の副局長たちであった。
彼等はミルケと違い、大卒者でそのほとんどが弁護士資格や税理士の資格を持ったインテリ層だったからだ。
 俺たちはミルケのような文盲ではないと、怒りをあらわにし、グロスマンがソ連に留学し、ソ連共産党党員学校を卒業したことを暴露した。
そして、自分たちが西ドイツの世論を環境問題を隠れ蓑にして、反核運動を進めたことを滔々と説明し始めたのだ。
 話は次第に、西側への政治工作から産業スパイで盗んだものの話に代わり、IBMから盗んだ電子基板や西独軍のレオパルド戦車の図面の話になった。
 一通り話終わって落ち着いたころ、5人の課長補佐の内、ある中佐の口から驚くべきことが発せられた。
それは新型戦術機・F‐14に採用された特殊な装甲板に関しての事だった。
「何!ブリッジス博士の手によって、スーパーカーボンを超える複合材が完成しただと」
「分子構造式さえ手に入れれば、我が国でも完璧に製造できます」
 中央偵察総局には科学技術偵察部という部署が存在し、産業スパイ活動を指揮していた。
電子部品ばかりではなく、最新の石油合成技術や化学繊維に関する特許などもその標的だった。
「その強度は、今までの炭素複合材の数倍、いや数十倍かもしれん。
それが我等の手に入れば……」
 
 東ドイツでは、戦術機の生産が米ソ両国により許されていた。
政府の肝いりで、アイゼンヒュッテンシュタットに修理工場を作ったのを嚆矢に、生産工場を作った。
 アイゼンヒュッテンシュタットは、1950年代にソ連によって計画され、建設された都市である。
東部製
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