第三部 1979年
戦争の陰翳
険しい道
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、テオドールは自分の名前が呼び止められて、ハッとなった。
天蓋の奥から、養父母のトマスとマレーネが姿を現したのだ。
「何をぼんやりしてる」
全裸の二人は、テオドールの姿を見つけ、こっちに近づき、声をかけたのだ。
脇にいたリィズは、いつの間にかローマン・アイリッシュ浴場を離れ、休養室の方に進んでいた。
温泉から出たテオドールたちは、その後、湯治客向けのカジノなどを視察し、レストランに足を運んでいた。
バーデンバーデンは温泉地でありながら、観光客向けの設備は充実していた。
郷土料理や地酒を出すレストランに、宿泊施設を併設したプール。
一部の高級ホテルには、湯治客向けの医療施設等が付随している。
別料金を払えばフィットネスセンターやエステもできるスパーもあった。
だが保養観光客は、街中にある種々の施設を自由に利用するのが一般的だった。
また近郊に行けば、酒蔵があり、そこで好みのワインなどを買い求めることも出来た。
バーデン州には火山性土壌が広がっており、そこで作られる葡萄酒にはミネラル豊な味わいの物が多かった。
「では、家族の健康を祝い、乾杯」
トマスの音頭で始まった夕食は、普段食べられないような豪華なものだった。
郷土料理のケーゼ・シュペッツレを始めとして、豚肉やパスタをふんだんに使ったものが所狭しと並ぶ。
初めて口にする赤ワインも、テオドールの暗い気持ちを緩和させた。
西ドイツは法律によって、両親の同席の元ならば14歳から低度数のワインの飲酒が許可された。
同様に低度数のビールは、16歳になれば、飲酒が許可され、購入も可能だった。
ウオッカやスピリッツなどの蒸留酒は、18歳以上から飲酒と購入が許可された。
タバコは、20歳以下に販売した店は、罰金刑の対象になったが、購入者を罰する法律はなかった。
その為、14歳から15歳で喫煙をする児童も少なくなかった。
統制国家の東ドイツも同様で、未成年の喫煙にはそれなりに苦慮していた。
「テオドール、君はどうしたいんだい」
ほろ酔い気味のテオドールは、義父の声に耳を傾けた。
自分は、ただ唯一の家族であるホーエンシュタイン家の人間と暮らしたいだけだ。
リィズが他人に盗られるとか、取り返したいだの思うのは変な話だ。
これからも一緒に暮らせばいいではないか。
テオドールは、おどおどしながらも答えた。
「俺は、リィズと一緒にいたいだけです。
リィズが嫌じゃなければ、一生一緒にいてもいいと思っています」
テオドールは、おずおずと顔を上げた。
対面のリィズは、夢を見ているかのような表情を浮かべ、長い金髪をかき上げる。
白い雪の様な肌が、薄っすらと朱に染まり、汗を浮かべている。
何か、大変な事を言ってしまったのだろうか……
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