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赤いスポーツカーを買った理由
第一章

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                赤いスポーツカーを買った理由
 定年退職を迎えてだ、金森英司ゲジゲジの様な繭と天然パーマの黒髪と明るいラテン系を思わせる顔立ちの一七〇位の痩せた彼は家族に明るく言った。
「還暦祝いに新車買うよ」
「新車?」
「そう、それを買ってドライブしよう」
 家族である妻の梨花に話した。妻も還暦近くで長い髪の毛は白くなっていて楚々とした黒目がちの目の目尻には皺があり面長の顔全体もそうだ。背は一五五位で身体にも年齢が出ている。
「そうしような」
「ドライブね」
「若い頃みたいにな」
「二人で」
「子供達はもう独立してるしな」  
 そしてそれぞれの家庭を持っている。
「家にいるのはわし等とな」
「ミケだけね」
「ニャア」 
 名前通り三毛の雌猫を見つつ話した。
「そうね」
「ミケは猫だから乗せられないけどな」
「動き回って危ないわね」
「車の中で。けれどな」
 それでもというのだった。
「二人でな」
「定年になったら新車買って」
「ドライブしような」
「それじゃあね」 
 妻はこの時夫が買う車は普通の自家用車だと思っていた、それで買いものに行く時に使ってそれをドライブにしようと思っていた。
 だがいざだ、夫が定年して新車が家に来ると。
「えっ、その車は」
「その新車だよ」
 家に来た赤いスポーツカーを前にだ、夫は妻に笑顔で答えた。
「これがね」
「あの、まさかね」
「スポーツカーだって思わなかったんだ」
「それも赤なんて」
「八条自動車の車でね」
 この企業のというのだ、トヨタやホンダと並ぶ日本を代表する自動車会社として世界的に知られている。
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