第51話「テレーゼ・ドルクマス」
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テレーゼ・ドルクマスは、前世の記憶を保持する転生者である。男の娘の写真をムフフっと眺めていたら通勤中にバナナの皮を踏み、転んで死んだ。我ながらビックリしたと、テレーゼは思う。二次創作だけの出来事な筈だというのに、まさか現実世界で身を以って体験することになるとは、微塵も思わなかった。
そして、だ。
当たり前の日常というのは、失って初めて分かる類の代物だと彼女が心底思い知らされたのは、実際に失った直後だった。
その失った始まりは……まぁ、非常に珍しい。二度目になるが、バナナの皮を踏み転んで死んだのだ。超が付く程に珍しい出来事。こういった創作系を画面で笑っていた自分が、身を以って体感し死んだというのは笑えないものである。
死んだテレーゼは幽霊となった。自分は、初めてバナナの皮に憎しみを抱いていたかもしれない。実際にそうだが。
幽霊になってから分かったことだが、幽霊に出来ることは何もない。物を動かすことも出来ないし、声を発することも出来ない。とにかく、幽霊になった彼女は、何も出来ないまま……ぼんやりと街中を漂うことしか出来なかった。
「おめでとうございます!元気な女の子ですよ」
その筈なのだが、気がつけば自分は見知らぬ部屋にいる。
「…??」
何が起きた、と取り乱しそうになりながらも周囲を確認する。頭上には無影照明、床は緑の色をするリノリウムの床、手術着を着用する女性と男性の看護師。病院、なのだろう。幽霊となった自分は元の身体へと帰還し、目が覚めたのか。
いや、そうだとしたら、何故自分は持ち上げられているのだろうか。平均と比べると軽めの部類とはいえ、軽々と成人女性を持ち上げられるとはどれだけ腕力が強いのだろう。…いや、え、そんなまさか……。
テレーゼは、最悪の事態を想像してしまう。まさか、手足を失ってしまったというのか。バナナの皮を踏んで転んで死んだ後、車に轢かれたというのか。あぁそれなら体重はかなり減るn………先程から痛いのだが。人様のケツをバシバシと叩いているんだ。痛い痛い、いい加減にしないと殴るぞ。
「せ、先生!この子、声を上げません!?」
男性看護師が繰り返しテレーゼの尻を叩く。隣にいる同年代と思われる若い女性医師は、自分を見つめながら指示を出している。なんだ、なんだっていうんだ。私はいったい、どうなってしまっているんだ!
今度は女性医師が叩き始めた。だから痛いと……あ、ちょっと何かに目覚めそう。いや、最早、受け入れるしかるまい。信じたくたくはないが、どうやら私は…、
「おぎゃー!おぎゃー!」
赤ちゃんへとなっているようだ。とりあえずと、テレーゼは涙しつつ声を出す。あ、痛くない。やっと、叩かれたくなったか。
「はい、お
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