第二話
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かに声が聞こえた。声質からして四十代後半くらいの男の声だろうか。
(もうすぐ新たな日常が始まる。少年が思ってもいない日常だ)
意識を手放したはずだったが、俊司はなぜか「思ってもいない日常?」と心の中で返事を返していた。男は「そうだ」と返事を返し、また話を続ける。
(少年はそれを受け入れる必要がある。それと同時に多くの苦痛が少年を襲うだろう)
男が何を言ってるかなんて今の俊司にはわからなかった。受け入れるだの苦痛に襲われるなど、そんなこと考えてもわからない。
(だが迷わず進め少年よ……時が来たらまた会おう……)
その言葉以降男は何もしゃべらなくなった。何を返しても返事が来ることはない。
それから数秒後、俊司の視界には少しずつ光が戻ってきていた。
かすかな光が目覚めたばかりの俊司の狭い視界に入り込んでくる。聞こえてくるのはそよ風と木々が鳴らす落ち着いた合唱ばかりだ。そこにはさっきまでいた住宅に挟まれた路地なんかではなく、あたり一面の森林が彼を出迎えていた。
「ここ……は……」
「あら、お目覚めかしら?」
聞き覚えのある声が聞こえ、俊司はそれに反応するかのように飛び起きる。彼の目の前にはさっきまで路地にいた女性が、切り株の上で座りながら扇子を仰いでいた。
「あんた……なにしたんだ……」
「なにって……証明したのよ?」
キョトンとした様子でそう答える女性。そう言われて俊司はさっきまで彼女とやっていたやり取りを振り返ってみる。あの何の変哲もない路地で、自分は彼女に何をしろと言った?
深く考えなくてもすぐに答えは現れた。
「証明……!?じゃあここは……」
「幻想郷よ」
『スキマを使って幻想郷へ連れて行け』それが俊司が言い渡した『八雲 紫』と認める条件。彼女はそれを成し遂げたと言うのだ。
本当に成し遂げると思っていなかった俊司は、言葉を失いただただ呆然としていた。普通の人間がこんなことをするのだろうか。それにさっき感じた地面がなくなる感覚と、何とも言い難い不気味な世界に落とされた記憶はなんなのか。信じようにも信じられなかった。
「さてと、これで条件はクリアしたわよ?私を『八雲 紫』と認めてもらえるかしら?」
「……わかっ……た」
これだけ思考を失ってもわかることは一つ。彼女が『八雲 紫』本人であるということだけだ。というよりかは無理やりそう思わないと、今自身におこっていることに説明がつけられない。俊司は不本意ながらも、彼女の言い分を認めることにした。
「ありがとう。じゃあ、本題に移るわよ?」
「本題?……俺をここに連れてきた理由……か?」
本来なら幻想郷に入るには自身が幻想にならないといけない。幻想郷は仮にも忘れ去られたものが流れつくような場所だ。俊司にとっては無縁としか言いようがない。
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