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東方守勢録
第二話
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え始めていた。

「あんたが『八雲 紫』なら、俺をスキマを使って幻想郷に連れて行け」
 幻想郷と言うのはゲームの舞台となっている世界の事である。『八雲 紫』が実在しているならばその世界も存在しているはずだ。しかしながら実際に存在しているはずもないし、連れていくことも出来ないだろう。俊司は完全にこちらの勝ちだと確信していた。
 しかし、この後すぐに彼の考えは甘かったことを思い知らされる。
「……ぷっ……フフッ」
 何がおかしいのか、女性は急にクスクスと笑い始めた。返答におかしなところなんて何もない。まるで彼女の笑いはこの返答を見越していたかのようだった。
 予想の斜め上をいく反応に、俊司は体中から冷や汗が出る感覚を感じていた。なにかよからぬことが起きそうだと、本能的に自分に訴えているのだろうか。
「な……なにがおかしいんだ?『八雲 紫』なんて現実世界にいるわけないし、スキマも使えない。ましてや幻想郷なんて――」
「あるわけない。それが日常をすごしてきた人の考え方ね」
 女性は急に声のトーンを変えると、扇子を閉じて静かに少年に近づいていく。そこにはさっきまで浮かべていた笑みもなく、ただならぬ雰囲気を漂わせていた。
 不吉な予感が的中したみたいだった。少しづつ後ずさりをして女性から距離をとり始めるが、背後はさっき見ていた路地の壁。ついには逃げ場を失ってしまい、女性は俊司の目の前まで来ていた。
「じゃあ証明してあげる。ちょうど私もそれが目的だったから」
「……は?」
 何を言ってるのか俊司には一瞬わからなかった。だがよくよく考えれば簡単なことだ。さっき自分が言っていた事を彼女は証明すると言ってるだけなのだから。
「何を言って……!?」
 反論しようとした俊司の足元から冷たい空気が流れ込む。それと同時に、地面の感覚というものが一瞬で消え去った。重力に引かれ、俊司の体はどんどんと吸い込まれていく。
 そう、彼の足元には不可能だと思われていたスキマがきちんと出来あがっていたのだ。
「え……うそっ……なんでスキマがあああああぁぁぁぁぁぁ……」
 落ちながら必死に手をのばす。しかしスキマの中は意外と深く、見る見る外の世界から離されていった。そのまま何も考えられなくなり、わけもわからないままなぜか薄れていく意識。ついには目の前が真っ黒になり、完全に意識を手放してしまった。
「ふう……予定通り……じゃないけど何とか一名様ご案内……といったところね」
 女性はスキマを覗き込みながらそう呟く。どんどんと落ちていく彼は、さっきとは違うなにか頼りない男にしか見えなかった。
「本当に大丈夫かしら……でも、私たちに残された希望は……彼だけね」
 そう呟くと自身もそのスキマへと飛び込んでいった。


(少年……聞こえるか?)
 暗闇の中で微
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