暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第三部 1979年
迷走する西ドイツ
暮色のハーグ宮 その2
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奥の部屋の前に着くと、鎧衣が音もなくカギを開けた。
キルケとマサキはカメラを持ち、その後ろから自動拳銃を持った白銀と鎧衣が続く。
 中に入ると男たちの密議が聞こえてきた。
会話はドイツ語だったので、マサキはすかさず録音し始める。
「5000万マルク、これでよろしいですかな」
「いや、ありがとうございます」
 部屋の中にいたのは、白髪頭に四角い眼鏡をかけた70歳前後痩身の男。
ゲーレンに聞いた人相からして、恐らくあれがヴェーバーだ。
 もう一人の禿頭の老人は、大きい十字架に、黒い無紋の袈裟はルター派の祭服だ。
マルチン・ニーメラで間違いないだろう。
「緑の党の候補者を立てるのに金に苦労していましてね。
まだ安心できない状況なんですよ」
 反対側に座っている恰幅のいい金髪の男は、恐らくドイツ人。
シュタージの工作員らしく、サングラスをかけて表情が分からない。
 脇に座っている黒髪のスラブ人風の男が、おそらくKGBだろう。
そのスラブ人がニヤリと笑う。
「これで大丈夫です。
これだけの実弾があれば、最後の詰めが撃てます」
 実弾とは、政界用語で現金の事である。
新聞紙上を騒がす、「実弾が飛び交う」という言葉は、選挙においての買収工作である。
 その瞬間!
ヴェーバーたちに、閃光が浴びせられる。
 キルケの持つ連写式のカメラからシャッター音が鳴り響き、閃光が続けざまに走る。
24枚撮りのフィルムが終わらないうちに、若いドイツ人の男は窓ガラスを割った。
そして、素早窓枠を躍ったかとみれば、翼をひろげた鳳凰(ほうおう)のように、10メートルほど下へ飛び下りた。
 スラブ人の男の怒気(どき)は、ムラムラと燃えた。
無防備だったマサキに、両手を広げて飛び掛かってくる。
 マサキは咄嗟に部屋にあったスタンドを振り回し、男の方に向けた。
その瞬間、男は雲手(うんすう)の姿勢になると、右の手でチョップを振り下ろしてきた。
「イヤー!」
 一瞬にして、金属製の電気スタンドは、手刀で両断されてしまう。
マサキは自分が拳銃を持っていることを忘れるほど、たじろいだ。
 じりじりと男が近寄ってくると、マサキも後退した。
その部屋のつきあたりまで、マサキを追いつめてきたかと思うと、いきなり、跳びついてゆこうとした。
飢えた狼が、鶏へ飛び掛かったように。
 一発の銃声が、ズドーンと鼓膜(こまく)をつんざく。
ぎょッとして向こうを見ると、モーゼル拳銃を構えた鎧衣だった。


 銃撃音を聞いた客が通報したのであろうか。
ボンを統括するノルトライン=ヴェストファーレン州の州警察の緑色のパトカーが現場に乗り付ける。
私服姿の刑事警察(クリミナル・ポリツァイ)が、マサキたちの周囲をぐるりと囲む。
事情を説明するよりも
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