第三部 1979年
戦争の陰翳
苦境 その2
[5/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
したようなことをしなくて済んだのだ。
その為、人口ESP発現体の多くは、麻薬の禁断症状で発狂し、薬なしでは長くは生きられなかった。
凶暴化した者は、大量殺人や自殺などの事件を引き起こし、ソ連赤軍では特別な管理下に置かれていた。
不思議な殺気を感じたマサキは、一旦会場から離れることにした。
今までに感じた事のないような頭痛を覚えた彼は、会場外に設置された仮設の手洗いに向かった。
その際、何者かが自分の後ろから近づいてくる。
時間を見るふりをして、鏡面加工のされた懐中時計で後ろを伺う。
プラチナブロンドとは違う、銀色の髪をしたスラブ系の女だった。
彫刻のような彫りの深い顔に、アルビノの様な赤い目。
自然界では絶対あり得ない組み合わせである。
遺伝子工学者のマサキには、後ろから近づいてくる女が只者ではないことを察知した。
間違いなく、遺伝子組み換えで生まれたクローン人間だ。
これがアーベルが言うところの人口ESPか……
マサキは、右袖の中に隠したコルト・ベスト・ポケットの安全装置を親指で解除する。
何時でも発射できるように、銃把を強く握りしめた。
マサキは、アーベルの話や国防大臣から聞いたESPの透視能力を思い起こした。
自身の思考を透視されている前提に立って、ソ連への憎悪を思い浮かべることにした。
こうすれば、後ろから来る超能力兵士も混乱するであろうという前提に立ってである。
手洗いのドアを開けて、中に入る。
足音が彼の後ろで止まると、背中に何か当たるような音がする。
マサキは振り返りざまに、25口径のコルト・ベスト・ポケットを発射する。
後ろに立っていた女は、マサキの方にナイフの柄を向けるようにして立っていた。
マサキの暗殺に使われたのは、スペツナズ・ナイフであった。
スペツナズ・ナイフといえば、ばねで刀身が飛ぶナイフというイメージがあるであろう。
ヴィクトル・スヴォ―ロフの著作が初見で広まった伝説は、広く人口に膾炙した。
だが、ナイフの刃を目標に向けて飛ばすというのは、西側メディアの神話にしか過ぎない。
一応、KGBは真剣にナイフ形のピストルを開発していたのは事実である。
実際のスペツナズ・ナイフは、NRS-偵察ナイフと呼ばれるものである。
トゥーラ―兵器工廠で開発された、6P25との正式番号のある暗殺拳銃で、25メートルの射程を誇る。
柄の後方から弾丸を装填し、柄頭にある装置から、弾丸が発射される仕組みになっていた。
消音装置はないものの、弾丸に特殊な消音加工がされたもので、現在もGRUやFSBで使われている。
マサキの攻撃より一瞬遅れて、ナイフの柄から火が吹く。
7.62ミリ×38ミリの弾丸は、マサキの着ている制服の左の肩章をかすめ、壁に当たる。
壁には
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ