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冥王来訪
第三部 1979年
戦争の陰翳
苦境 その4
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思っていたのだ。

 マサキ達は、東山にある都ホテル(今日のウェスティン都ホテル京都)の一室にいた。
ここを選んだのは、100人以上が宿泊でき、尚且つエアコンが常備されているホテルという点からであった。
 近代日本式の大規模な日本庭園があり、戦前から外人にも人気の場所だった。
その為、長い期間、日本最大の観光地である京都の迎賓館として君臨し続けた。
「すごいお部屋ね」 
 アイリスディーナは、先ほどからしきりに感嘆の言葉を続けていた。
東ドイツでは、高級ホテルはほぼ外人専用で、この様な部屋に泊まることなどないのだろう……
「中程度のプレジデンシャルスイートだぞ?
そんなに驚くほどでもないと思うが……」 
 椅子に深く腰掛けたマサキは、懐中からホープとライターを取り出す。
窓の外を見ながら、タバコに火をつけた。
「でも、私にとっては……」
「ああ、お前は、まだ子供だったな。
こう言う世界を知らないのは無理もないか……」
 マサキは、ホープを上手そうに燻らせながら、頬まで紅潮する彼女の美貌を眺めやる。
白いブラウスと、タイトな濃紺のスカートという地味な格好だが、かえってアイリスディーナの可憐さを引き立てる様だ。
「私は19歳です、もう大人ですから……」
 マサキは、アイリスディーナの事をいとおしそうに見つめた。
大人を強調する彼女は、確かに成熟した女と何ら変わらないと思えてくる。
 その時、机の上にある電話が鳴った。
マサキは素早く立ち上がった。
 交換手の声の後、元気のいいミラの声が聞こえてきた。
「さっき、電話をくれたようだけど、何かしら」
「今から人を連れて行こうと思うんだが、そっちの都合はどうだ?」
「午後4時過ぎなら、主人も帰ってくるわ。
今日は土曜日だし……」
 1979年6月30日は、土曜日だった。
マサキは前の世界の癖で、この時代の土曜日が半ドンであることをすっかり忘れていた。
「それで構わんよ。よろしく頼む」
「わかったわ」
 そう言いながら、ミラは思いついた。
「そうそう、夕方の予定は特にないでしょう。
もしそうなら、今晩はなれずしでも御馳走しますわ」
 なれずしとは、魚を塩と米飯を熟成させ乳酸発酵させた食品のことである。
現在一般的になっている江戸前寿司とは違い、独特の匂いと味で好き嫌いが分かれる食品である。
 日本人の自分は良いが、アイリスディーナにとってこの未体験の味はきついだろう。
マサキは、ミラの厚意に感謝しつつ、違う料理を出すように提案した。
「そいつは結構だが、連れが嫌がるかもしれん。
なれずしなどより、お前がうまいと思うものを用意してくれ」
 約束が決まって、電話を切ったマサキはアイリスディーナの方を向く。
「とりあえず、さっき俺の方からミラに
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