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冥王来訪
第三部 1979年
戦争の陰翳
苦境 その1
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での日ソ関係を振り返ってきていた。
ソ連は、ロシアという国は交渉を通じて、幾度となく日本をだましぬいてきた。
 それは幕末、明治、戦前ばかりではない。
戦後の国際社会復帰以降も、ソ連は様々な手を用いて、日本を騙し抜き、欺いてきたではないか。
 この異世界にはソ連の対日参戦がなく、北方領土問題は存在しない。
だが、より元の世界より悪質で凶暴な人間だ。
何も、してこないはずがない。
 思えば、戦後の領土返還交渉はボタンの掛け違えから始まった。
鳩山一郎ら日本代表団がソ連に入った時、ハンガリーで大規模な蜂起があった。
 当時のフルシチョフはデタントを進めるために、どうしても日本との国交回復が重要だった。
またソ連大使館がないために、スパイ活動が不十分だったのもKGBやGRUにとって不満だったらしい。

 あの時、日本側はソ連にいた抑留者の返還のために焦ってしまったが……
もし、目先の問題を脇に置いて、代表団一行が帰国していたらどうだったのだろうか。
 フルシチョフは空港まで駆け寄って、日本代表団を引き留めていただろう。
北方領土も、のど元にあるハンガリーとは違い、辺鄙な田舎で、維持にも金がかかる場所である。
恐らく諦めて、帰したであろう。
 そのことは19世紀に英国の進出を恐れて、アラスカをはした金で米国に売却した故事を思い起こせば、在りうる。
ロシアは相手国を混乱させるために、自国の領土を切り売りすることがあるのだ。 
 赤色革命真っ只中の1920年代初頭、シベリア出兵をしていた連合国を引き裂くためにカムチャッカの売却交渉を始めったではないか。
結局物別れに終わったが、この作戦のために日米は不信感をいだくようになり、シベリア出兵自体が空中分解したではないか。

 一旦、手の動きを止めて、机の上にあるホープの箱からタバコを取り出す。
紫煙を燻らせながら、もう一度考えを整理する。
 あの諦めの悪いロシア人の事だ。
恐らく、東ドイツと東欧諸国の間にくさびを打ち込むことを忘れまい。
西ドイツと東ドイツの合邦の阻害になるようなことを打ち出してこよう。
 例えば、ソ連の占領下でドイツ領だったカリーニングラードをポーランドに渡す。
その代わりに、ポーランドがダンツィヒを東ドイツに割譲するという案である。
 ソ連にとっては一石二鳥の名案だ。
維持費のかかるカリーニングラードを高値で売却することが出来、ドイツ・ポーランド間に長い憎しみの目を撒く事ともなる。
 ポーランドは、この案を受ければ、長年の悲願だった東プロイツェンを取り戻す。
だが一方、ダンツィヒを再びドイツに割譲することになる。
 東ドイツにしても、ドイツ民族の宿願であるダンツィヒ問題を解決する。
その代わりに、父祖の地である東プロイセンを諦めざるを得な
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