第三部 1979年
戦争の陰翳
苦境 その3
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こんな表情のアイリスディーナを見るのは、初めてだった。
マサキは、年下の恋人の顔を見るだけで、高ぶってくるのが実感できた。
「だが……」
そう言おうとした瞬間、視線がぶつかった。
一瞬、マサキはひるんだような表情を、アイリスディーナに見せる。
しかし、何か確固たる意志を目に浮かべ、顔を近づける。
「超兵器の開発競争だけが、国土を守る手段ではないのかもしれないな……」
マサキが突然、顔を近づけてきた。
迷いが一瞬のすきになったのであろう。
アイリスディーナは避けることが出来なかった。
唇が重なり合う。
アイリスディーナは、唇を離した。
マサキの口の間から、行き場を失ったかのように舌がこぼれ出る。
「アイリス、反戦平和の思想もお前の口からきくと、甘美な愛の歌のように聞こえる。
たまにはこういう哲学的な話も、違う刺激になって楽しいものよのう」
アイリスディーナの体に、マサキの腕が回された。
マサキは、痛いほどきつく、アイリスディーナの体を抱きしめた。
アイリスディーナは、マサキの胸に顔を埋めた。
黒い大礼服から、仏教寺院で焚かれる線香のような香りがして来た。
伽羅の香りだ。
古来より武士が愛用した沈香という高級香木の匂いである。
アイリスディーナは伽羅の香りを嗅ぎながら、体が内側から溶けていくような感覚を味わった。
多分、マサキ以外にされたら、嫌悪感を感じて、悲鳴を上げたであろう。
「俺は、やはり冷戦構造の中での軍拡競争というひと時の平和という方法しかないと思っている。
いずれにしても、この終わりなきマラソンを続けていれば、ソ連の方から根を上げてくるだろう。
優れた科学技術さえ見せれば、根が野蛮人の露助どもは、自分から兜を脱ぐ」
マサキの言葉に、アイリスディーナはビックリしたかのように顔を上げた。
マサキの目に、冷たい目の輝きが浮かぶ。
「どうして、そんなようなことを……」
マサキは、意を決して、アイリスディーナの目を見据えた。
「俺は、自分自身と所属する国家の幸せを追求するのに、貪欲というだけさ」
アイリスディーナは、明らかに動揺していた。
マサキは、頬の端に毒のある笑みを浮かべた。
「わかってほしいな、アイリスディーナ。
俺はBETA教団の気違い共のように、運命なぞというものを受け入れて死んでいくという事は出来ないのだよ」
アイリスディーナは、マサキの言葉を受けて精神的なショックを受けてしまった。
そんな気持ちを察しながらも、マサキは、己の不安を隠すかのように哄笑を漏らすのだった。
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