第104話 憂国 その4
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ーに居る口の上手い販売員だけです」
「……」
「しかしいくら口の上手い販売員とはいっても、流石に虫食いや腐敗したリンゴを最高級品とは言えない。大手スーパーとしては生産者に改善を要求したいが、生産者には改善する方法は知っていても実施するだけの資本がない。肥料を買い、消毒剤を買い、人や機械を入れ、それでも実際に成果になるには時間がかかります」
マーロヴィアはそれまで忘れ去られた辺境の果樹園。市場からあまりにも遠すぎ、輸送経路は荒れ放題で果樹の品質は低下する一方。行政府としては時間がかかってもいいから生産力を回復させたい。その為、経験豊富な老農夫(ビュコック准将)が技術指導で派遣されたが、老農夫一人では剪定(内部粛軍)や苗木選別(護衛船団)は出来ても、大規模な開拓資金や免許資格の必要な消毒剤の散布(民間内通者の逮捕)や農業機械の購入(作戦資材の調達)までは出来なかった。
そこで販売員の元締めも兼ねるスーパーの営業宣伝部長が、伝手(ロックウェル少将)を使って道路改善にアスファルト(機雷)や道路施工業者(コクラン大尉)を用意し、老農夫が持っていない資格を必要とする消毒剤の購入許可(逮捕状)を得て生産者に手渡した。生産者(マーロヴィア星域軍管区・行政府)の業務改善は進み、望外の大きな果実(ブラックバート)がスーパーに送られてきたので、販売員は広告チラシにデカデカと載せたわけだ。だがスーパーにリンゴを買いに来た人の耳には、卓越した広告マンの売り文句しか残らない。
「……しかし時間がかかるどころか、マーロヴィアの治安回復はほぼ一年半で成し遂げられた。女王様は懐刀の縦横無尽な活躍こそ褒め称えても、『帝都におられる軍務尚書』については褒めるどころかクソ貶しにしてましたよ?」
「女王様は販売価格の設定や生産量の調整についてはお詳しいのですが、何分鍬持って土いじりはされたことはないでしょうからね」
パルッキ女史には怒鳴られまくった記憶しかないが、まぁ、それは良いとして。
「それにやはりどこも人手不足なのですよ。軍務尚書としても頭が痛い事でしょう」
そんな俺の何気ないつもりで吐いた言葉に対し、目に火が灯ったようにパトリック氏の顔色が変わった。それまで的の外れた例話に唖然としていた四〇男のものから、敏腕な記者のものへと。
「中佐は現在の同盟の軍事力が不足していると、考えていらっしゃる?」
その短い言葉の端々から、パトリック氏が過剰な徴兵による労働生産人口の減少をはじめとした、現在の軍偏重の同盟経済に敵意を持っていることが分かる。ただでさえ圧迫されているのに、目の前の若い軍人はまだ足りないと宣う。このボンボンは不都合な経済の現状も知らないで、と言った怒りすら表情に浮かんでいる。
だがそれはあくまで同盟のマトモな市民としての
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