第三部 1979年
戦争の陰翳
夏日
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ュトフとの不仲によるものだった。
兵卒上がりの大臣と、このエースパイロットはそりが合わなかったのだ。
だが今の議長は、退役させられていたゾルンを現役復帰させ、航空軍および防空軍の中核へ彼を送った。
議長は、この事によって、三軍全てを自分の派閥の人事で固めることとなったのだ。
基地の総員は、不意の来訪にもかかわらず、うまく対応して見せた。
アイロンのかかった制服に、磨き上げられた軍靴、それらを見せつける様なガチョウ足行進。
奇麗に塗装し直された戦術機や自走ロケット砲などを展示し、副大臣を満足させ、彼からの感謝の意を受け取った。
共産国の軍隊の常として、このような政治指導者への接待は、訓練よりも重要視されたのだ。
一連の儀式が終わった後、アイリスディーナは師団長室に呼び出された。
彼女の服装は、濃紺の強化装備から男物の戦闘服に着替えていた。
アイリスディーナが、男物の戎衣を着ているのには訳があった。
彼女の172センチの身長と、98センチという豊満すぎるバストサイズのためである。
婦人用野戦服では、肩幅や胸周りがきつく、腕が思うように上がらなかったのも大きかった。
また基地の将兵や関係者のほとんどが男性だったので、彼等からの好機の目を避ける意味合いもあったのだ。
しかしその服装は、本人の意思を別として、大変に目立つものであったのは間違いがなかった。
政治将校に会うたびに風紀面で気を付けてほしいと、くだらない話をされたものだった。
アイリスディーナが部屋に入るなり、上座のゾルン副大臣兼防空軍司令から声を掛けられた。
室内には師団長の他に、シュトラハヴィッツ中将が、何故かいた。
「同志ベルンハルト少尉、君の着陸は、墜落かね」
かつてのドイツ空軍パイロットからの言葉は、非常に厳しいものだった。
その声と姿勢は、ソ連での抑留生活や長い退役生活を感じさせない軍人のそれであった。
空軍司令官は言葉を切ると、ゲルベ・ゾルテの箱を開け、両切りタバコを口に咥える。
楕円状の紙巻煙草に火をつけると、甘い独特の香りが室内に広がった。
数分の沈黙ののち、司令官が再び口を開いた。
それまでかけていた型の古い四角いフレームの老眼鏡を、ゆっくりと机の上に置く。
その眉と眼差しの間に、ふと、音の発するような感情が露出していた。
「君は国家人民軍の宣誓を覚えているかね」
アイリスディーナは、老将軍の視線に見つめられ、俄然、おののきを覚えた。
明らかな狼狽えを表し、新兵特有のコチコチの態度になり、やや間をおいてから答えた。
ゾルンの声と態度に、ついつい士官学校で教え込まれた習慣が顔を出したのだ。
「宣誓!
私はドイツ民主共和国に忠誠を誓い、労農政府の命令に従い、常にいか
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