第三章
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「むしろな」
「冬はつとめてです」
利休は頭を少し垂れて秀吉に述べた。
「そうありますので」
「冬はつとめてとは」
「枕草子ですか」
そう言われてもぴんとこない秀吉に代わって秀長が言ってきた。
「清少納言ですな」
「左様です」
「春はあけぼの、夏は夜」
「秋は夕暮れでして」
「そして冬はですね」
「つとめてですから」
つまり朝早くだというのだ。
「私もそう思いまして」
「あえて朝早くに我等を呼んで頂きましたか」
「左様です」
「成程。これが利休殿の風流ですか」
「枕草子の頃に既に風流は解されていました」
その清少納言達にだというのだ。
「私も枕草子を読み実際にそうした刻を過ごしてみまして」
「その通りだと思われたのですか」
「左様です」
「成程。そうだったのですか」
「して如何でしょうか」
利休は秀吉と秀長に問うた。
「冬のつとめては」
「憎いのう」
秀吉はまずはこう答えた。
「心憎いわ」
「そうだというのですか」
「うむ、心憎いわ」
秀吉はしてやられた、という苦々しさと満足感が入り混じった笑みで利休に対して答えた。その間も庭を見ている。
「これが風流か」
「この寒い中にそれがあるかと」
冬はそうだというのだ。霜があり雪も残っている。草木は枯れ何もないが白く澄んだ化粧が施されているその世界の中にだというのだ。
「そう思います」
「見事じゃ。これまでわしが見たどの風流よりもな」
「有り難きお言葉」
「寒いことだけが厄介じゃがな」
「その寒さですが」
利休は秀吉のその言葉を受けてまた言った。
「お二人はまだ何も召し上がられていないでしょうか」
「うむ、まだじゃ」
「それがしもまた」
二人はそれぞれ利休に答える。
「こんな朝早くからはな」
「まだその時ではありませんので」
「そう思いまして」
やはり淡々と礼儀正しく言う利休だった。
「用意しております」
「朝飯をか」
「それをだと」
「粥ですが」
それだというのだ。
「熱い粥を用意しております。そして風呂も」
「ほう」
秀吉は風呂もあると聞いて思わず声をあげた。
「何と。それもか」
「用意しております」
「では今から粥を食らい」
「そして風呂はどうでしょうか」
「見事じゃ。では寒さもか」
「風流でありますので」
それでだというのだ。
「その寒さをどう味わい楽しむかもまた大事かと思いまして」
「成程のう」
「では宜しいでしょうか」
利休は己の風流への考えに唸る秀吉に対して述べた。
「今より粥と風呂を」
「うむ、楽しませてもらうぞ」
秀吉は満面の笑みを浮かべてそのうえで利休に応えた。そのうえで秀長と共に粥を食い風呂に入り寒さに身も心も凍みた後で
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