第七章
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わかった。そうした輩だったとわかったのだ。
それでだ。こう言うのだった。
「では特に罪に問うこともな」
「ありませんか」
「ない。今度からそんな馬鹿なことを言って売るなと言ってな」
「そうしてですね」
「それで放せ。小者はどうでもよい」
まさにそうだというのだ。
「これでな。ではな」
「わかりました。しかし」
「?まだ何かあるのか」
「隊長です。そのご病気のことですが」
「そんなことはどうでもいい」
茂平はこのことは毅然として述べた。
「俺のことはな」
「宜しいですか」
「ああ、いい」
己のことだが素っ気無く述べていく。
「死ねばそれまでのことだ」
「しかし死ぬことはあの時に」
「確かに怖い」
このことはここでも否定しなかった。彼も死ぬことは怖いとだ。
だがそれでもだ。やはり確かな声で言う。
「それでもだ。俺は帝国陸軍の軍人だ」
「そうであるからですか」
「それ故にだ」
「薬は飲まれずにですか」
「水子でなかったがな」
だがそれでもだというのだ。
「そうしたことを言って売っているものは絶対に口に入れぬ」
「しかしご病気は」
「恥を口にしてまで生きることはしない」
これは絶対にだというのだ。
「そういうことだ。俺は軍人だからな」
そして武士でもあるというのだ。茂平は毅然として部下達に言った。この後彼は運よくと言うべきかおそらくは食事が米の他に麦をよく食べたのであろうそれで脚気から助かった。その後の義和団事件や日露戦争でも常に毅然として一毛も盗まず嘘を言わず武器を持たぬ者には決して刃を向けたりはしなかった。常に文武を修め己を鍛錬しそういったことを誇りとしてきた。そしてそんな彼を人は明治の侍と呼んだ。彼はそう呼ばれることを終生の喜びとしていた。死に至る時も辞世の句を読みそこでも武士として遂げた。まさにまことの武士だった。
武士 完
2012・8・27
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