第六章
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清の古書だ。そこに書いてあったのだ。
「人を食う話はな」
「あれはまことなのでしょうか」
「まことの話でしょうか」
「歴史の書にある」
確かにだというのだ。茂平は史記やそうした書の話をした。
「人を食う。塩漬けにしたり肝をえぐったうえでな」
「ありますか。では」
「あの者の言うことは」
「確かだろう。漢方医学にもあるからな」
「それで水子を売ろうとしています」
「脚気の薬といって」
「効くのか?」
真剣な顔で医師達に問うた。
「いや、それ以前にだ」
「それをどうして手に入れたのか」
「水子達をですね」
「とりあえず話を聞こう」
茂平はまた言った。
「その者の話をな」
「自分が言うには医者とのことですが」
「漢方医だそうです」
「それで水子を手に入れていると」
「たどたどしい日本語で言っております」
「何処で日本語を身に着けたかも気になるがな」
まずはそれよりもだった。
「とにかくその者の話を聞こう」
「では少尉の前に連れて来ます」
「そうします」
「うむ、頼む」
こうしてその怪しい自称漢方医はベッドにいる茂平の前に連れて来られた。茂平はその顔に目を見てすぐにこう直感した。
(こいつは碌な者ではないな)」
目を見れば濁っている。物腰も卑しい。そうしたものを見てだった。
彼は男がならず者の類だと確信した。しかしそれを隠して男に問うた。
「医者だそうだな」
「漢方医です」
男は下卑た様で茂平にも言う。
「それを生業としています」
「脚気を治せるそうだな」
「はい、特別な薬を用いて」
「何だ、その薬は」
「お聞きだと思いますが」
「水子だな」
「はい」
まさにそれだというのだ。
「それがありますが」
「どうして手に入れた」
「さて」
そこはぼかす。このことから茂平は男が碌でもない経路で水子を手に入れているまさに碌でもない者だと直感した。しかし今はだった。
あえて何も言わず男の話を聞き続ける。男は水子を手に入れている経路については言わずそのままこう話していくのだった。
「とにかくです。水子を食べればです」
「脚気は治るか」
「そんなものはすぐです」
こう茂平に言うのだ。脚気になっている彼に対して。
「治りますよ。水子は万能の薬ですから」
「そうか。脚気もか」
「本当にすぐにです」
「わかった」
ここまで聞いて頷いた。そして男を見てだった。
考える顔になる。そのうえで男に対して問うた。
「この脚気に対しては俺もだ」
「苦しんでおられますね」
「死に至る病だ。俺も死ぬのは怖い」
このことを確かに言ったのである。
「正直なところな」
「では水子を」
「おい」
茂平はここでは男には答えなかった。その代わりに
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