第一章
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武士
駒井茂平は三重の百姓の息子だった。次男で親にいつもこう言われていた。
「お前は弟だからな」
「家は兄貴が継ぐんだよ」
「分ける田畑もないからな」
「街にでも出て働くんだよ」
そうするしかないといつも言われていた。それで彼自身もだ。
大きくなれば村から出て百姓から別の仕事に就くしかないと考えていた。その中で小学校の先生にこんなことを言われた。
「兵隊さんは立派なんだぞ」
軍隊の話を話されたのだ。
「強いだけじゃないんだ」
「強いだけじゃないんですか?」
「そうだ。ただ強いだけじゃないんだ」
そうだとだ。先生は笑顔で茂平や他の児童達に話す。
「立派なんだぞ。悪いことなんてしないんだぞ」
「そんなに立派なんですか」
「武士だぞ、武士」
先生は江戸時代の彼等のこともその話に出した。
「それで立派じゃない筈がないだろ」
「兵隊さんは武士なんですか」
「そうだ、武士なんだ」
実際にそう思われていた。警官もそうだが軍人には士族出身者がかなり多かったのだ。そして武士は百姓の茂平達にとってはまさに憧れだった。
それで茂平は目を輝かせて先生に問うた。兵隊、軍人のことをさらに。
「武士になれるんですよね、今は」
「ああ、なれるぞ」
まずは茂平にとっていい返事が来た。
「ご維新からこの明治の時代になってな」
「なれるようになったんですね」
「そうだ。四民平等だからな」
明治になり最もいいと考えられることだった。
「今じゃ誰もが武士になれるんだ」
「そうなんですか。じゃあ」
「しかしだ」
だがここでだと。先生は厳しい顔になってその茂平に話した。
「兵隊さんにはそう簡単にはなれないぞ」
「えっ、そうなんですか?」
「頭も身体もよくないと駄目なんだ」
まずはこの二つだった。
「身体はしっかりしていてな」
「勉強もですか」
「武士は文武二道だぞ」
このことは江戸時代を通じて常に言われていた。そして武士達は実際にそのどちらも極めんとしていたのだ。
このことを先生は茂平に厳しい口調で話した。
「どっちもよくないと駄目だぞ」
「どっちもっていうと」
「御前は体操はいい」
そっちはよかった。子供の頃から家の畑仕事をしていて身体はいいのだ。背も大柄でしっかりとした体格をしている。
しかし勉強、文の方がはどうかというと。
「そちらは今一つだからな」
「だからですか」
「頑張れ」
先生は今度は強い口調で告げた。
「いいな、勉強も頑張れ」
「そうしたらですね」
「それだけじゃない」
勉強だけではなかった。さらにだった。
「悪いことをしても駄目なんだ」
「悪戯とかもですか」
「弱い者いじめも嘘も駄目だ」
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